ナーガ(その他表記)Nāga

改訂新版 世界大百科事典 「ナーガ」の意味・わかりやすい解説

ナーガ
Nāga

ヒンドゥー教の神名。〈竜〉と漢訳されたが,本来は中国の竜とは異なり,蛇,とくにコブラのことである。蛇神崇拝はすでにインダス文明において存在したと推測される。アーリヤ人は古来より行われた蛇神崇拝をしだいに受け入れ,半神の一つとみなすようになった。ヒンドゥー教の文献では,ナーガすなわち蛇族は,パーターラPātālaと呼ばれる地底界に住むとされる。バースキVāsukiその他の竜王がその世界を統治している。パーターラの最下層に原初の蛇(アーディ・シェーシャ)アナンタAnantaが住み,その頭で全世界の重みを支えている。ナーガはしばしば人間の姿で文学作品に登場し,竜の娘は非常に美しい容姿をしているとされた。ナーガは仏典においてもよく言及され,天竜八部衆の一つである。同じく八部衆に属する摩睺羅伽マホーラガ)は大蛇のことであるが,ニシキヘビなどの大蛇を指すようである。ミャンマー国境に近いナガランドには,ナガ族という種族が住んでいて,ナーガの末裔と称し,独自の習俗を保存している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナーガ」の意味・わかりやすい解説

ナーガ
Nāga

インド土着のへびの信仰から形成された蛇神。竜と漢訳される。ナーガ,すなわちへび族はパーターラと呼ばれる地底界に住むとされる。バースキその他の竜王がその世界を統治している。竜王たちは巨大で強力で猛毒をもち,頸部に大きな傘状のふくらみを有する。竜王の観念はおそらくキング・コブラの形状から生れたものであろう。ナーガはガルダ (迦楼羅) という伝説上の巨鳥に食われるとされる。ガルダ鳥に食いつくされてしまいそうになったへびの一族を救ったのが,インド文学に有名なジームータバーハナである。彼の捨身物語を戯曲化したのがハルシア朝の王ハルシャバルダナ (7世紀) の『ナーガーナンダ (竜王の喜び) 』である。竜は仏教では天竜八部衆の一つとされ,仏法を守護する半神と考えられた (→八大竜王 ) 。

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世界大百科事典(旧版)内のナーガの言及

【水神】より

…トロイア人がスカマンドロス川Skamandrosの聖なる力を信仰し,牛や馬を供犠として深みに投じたことや,ガンガー(ガンジス川)が清浄力をもつとされ,古代から現代にいたるまで沐浴する者が後を絶たず,遺骨が投棄されることはよく知られている。水を支配・統御する独立の神(霊)として有名なものにシュメールの水神エンキ(バビロニアではエア),アッカドにおける雨の神としてのアダドまたはハダド,エジプトのナイル川を支配する神のハピHapi,さらに,ギリシアの海洋神ポセイドン,ローマの海神ネプトゥヌス,インドをはじめ日本も含むアジア各地で崇拝されている水神ナーガNāga=竜神などがある。水神のパンテオン(万神殿)における地位と力は民族,社会によって異なるが,ところによっては高い地位と影響力をもつことがある。…

【竜宮】より

…沖縄のニライカナイにも本土の竜宮と共通する面がある。【大林 太良】 古来インドでは竜(ナーガNāga)族の住む地底の世界を〈ナーガローカNāgaloka〉あるいは〈パーターラPātāla〉とよび,その都は〈ボーガバティー(快楽の町)〉といわれ,宝石をちりばめた城壁に囲まれた豪華なものであった。竜王の宮殿を竜宮(ナーガババナNāgabhavanaまたはナーガラージャババナNāgarājabhavana)とよび,竜族の長アーディ・シェーシャ(原初の竜)たるアナンタ王が,美しい女たちに囲まれて住んでいた。…

【水神】より

…トロイア人がスカマンドロス川Skamandrosの聖なる力を信仰し,牛や馬を供犠として深みに投じたことや,ガンガー(ガンジス川)が清浄力をもつとされ,古代から現代にいたるまで沐浴する者が後を絶たず,遺骨が投棄されることはよく知られている。水を支配・統御する独立の神(霊)として有名なものにシュメールの水神エンキ(バビロニアではエア),アッカドにおける雨の神としてのアダドまたはハダド,エジプトのナイル川を支配する神のハピHapi,さらに,ギリシアの海洋神ポセイドン,ローマの海神ネプトゥヌス,インドをはじめ日本も含むアジア各地で崇拝されている水神ナーガNāga=竜神などがある。水神のパンテオン(万神殿)における地位と力は民族,社会によって異なるが,ところによっては高い地位と影響力をもつことがある。…

【八部衆】より

…(1)天(デーバdeva) 神のことで(devaはラテン語deusと同系),帝釈天をはじめとする三十三天など。(2)竜(ナーガnāga) 水辺にいて降雨などをつかさどる。その居所は竜宮と呼ばれる。…

【竜宮】より

…沖縄のニライカナイにも本土の竜宮と共通する面がある。【大林 太良】 古来インドでは竜(ナーガNāga)族の住む地底の世界を〈ナーガローカNāgaloka〉あるいは〈パーターラPātāla〉とよび,その都は〈ボーガバティー(快楽の町)〉といわれ,宝石をちりばめた城壁に囲まれた豪華なものであった。竜王の宮殿を竜宮(ナーガババナNāgabhavanaまたはナーガラージャババナNāgarājabhavana)とよび,竜族の長アーディ・シェーシャ(原初の竜)たるアナンタ王が,美しい女たちに囲まれて住んでいた。…

※「ナーガ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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