釈迦に教化され仏法を守護する8種の下級神の総称。大乗経典に仏の説法の聴衆として登場する。天竜八部衆ともいう。(1)天(デーバdeva) 神のことで(devaはラテン語deusと同系),帝釈天をはじめとする三十三天など。(2)竜(ナーガnāga) 水辺にいて降雨などをつかさどる。その居所は竜宮と呼ばれる。インドの美術ではコブラまたはコブラを頭につけた人間の姿で表される。(3)夜叉,薬叉(ヤクシャyakṣa) 森の神として福神と鬼神の両面をもつ。夜叉女(ヤクシーyakṣī,ヤクシニーyakṣiṇī)は多く豊満な裸女で表され,毘沙門天の部下とされる。(4)乾闥婆(けんだつば)(ガンダルバgandharva) 帝釈天に仕える音楽神で香(ガンダgandha)を食べて生きるとされ,ギリシア神話のケンタウロスとの関係も指摘されている。(5)阿修羅(アスラasura) 天に敵対するとされる乱暴な神。非天と訳されることもある。(6)迦楼羅(ガルダgaruḍa) 鷲が神格化されたもの。金翅鳥(こんじちよう)とも訳され,竜のライバル。人間の肢体に鳥の頭,翼,爪をもったガルダの図が中国のベゼクリク石窟にある。(7)緊那羅(キンナラkiṃnara) 歌舞神で,半人半鳥または半人半馬の姿で表される。これが半人半獣(鳥)の神と表されるのは,キンナラが〈人か否か〉を意味するからである。(8)摩睺羅伽(まごらが)(マホーラガMahoraga) 〈大蛇〉の意の神で,楽神とされる。またこれとは別に,四天王の配下とされる八部衆がある。(1)乾闥婆,(2)毘舎闍(ぴしやじや)(ピシャーチャPiśāca),(3)鳩槃荼(くはんだ)(クンバーンダKumbhāṇḍa),(4)薛茘多(へいれいた)(プレータPreta),(5)竜,(6)富単那(ふたんな)(プータナーPūtanā),(7)夜叉,(8)羅刹(ラークシャサRākṣasa)。このうち(2)と(8)は食人鬼の一種。(3)は〈甕のような睾丸をもつもの〉を意味し,象皮病患者のイメージに基づくと考えられる神。(4)は餓鬼。(6)は餓鬼の仲間で熱病鬼とされる。
執筆者:定方 晟 八部衆の造像は,日本においては古代に集中している。著名な作例である奈良・興福寺の彫像(乾漆造,国宝)は五部浄(ごぶじよう),沙羯羅(さから),迦楼羅,鳩槃荼,阿修羅,乾闥婆,緊那羅,畢婆迦羅(ひばから)と称し,五部浄を天に,沙羯羅を竜に,鳩槃荼を夜叉に,畢婆迦羅を摩睺羅伽に当てる。なお興福寺像は二十八部衆の一部である可能性を指摘する説もある。八部衆は奈良時代の作である興福寺像以降は,著名な作例は残されていないが,密教に取り入れられ,胎蔵界曼荼羅図の外金剛部院に八尊が離れて配置されるが,八部衆八尊を一組として造像することはなかった。また,仏涅槃図の中に八部衆の八尊が描かれる例が多い。
執筆者:関口 正之
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天竜八部とも。仏法を賛美し守護する守護神。天(デーバ)・竜(ナーガ)・夜叉(やしゃ)(ヤクシャ)・阿修羅(あしゅら)(アスラ)・迦楼羅(かるら)(ガルダ)・緊那羅(きんなら)(キンナラ)・摩睺羅伽(まごらか)(マホラガ)・乾闥婆(けんだつば)(ガンダルバ)をいう。現存の造形では奈良興福寺の八部衆(国宝)が天平期の乾漆(かんしつ)像として有名。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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