改訂新版 世界大百科事典 「ニシキヘビ」の意味・わかりやすい解説
ニシキヘビ (錦蛇)
ボア科ニシキヘビ亜科Pythoninaeに含まれる大型ヘビの総称。とくにそのうちのニシキヘビ属Pythonに含まれる一群を指すことが多い。ニシキヘビ亜科は5属22種がアフリカ,熱帯アジア,ニューギニア,オーストラリアに広く分布し,そのうちオウダ(王蛇),またはパイソンの名で一般にもよく知られる10種がニシキヘビ属に含まれ,亜科のものと同一分布域に生息する。
英名のpythonがギリシア神話に登場する巨大なヘビ,ピュトンに由来するとおり,ニシキヘビ属には全長5mを超えるものが4種含まれる。最大種は東南アジアのアミメニシキヘビP.reticulatus(英名reticulate python)で,美しい網目模様と太い胴の持主として動物園でも人気がある。全長6~8m,最大は9.9mに達し確実な記録としては現生ヘビ類では最大。次いでニューギニア,オーストラリア北部のアメジストニシキヘビP.amethistinusが最大8.6mに達するが,ふつうは全長3~6mで胴はあまり太くない。次に大きいのは砂漠を除くアフリカ全域に分布するアフリカニシキヘビP.sebaeで,全長4~7.5m,インド,東南アジア,中国南部のインドニシキヘビP.molurusが3~6mで,両種とも斑紋が美しく胴が太い。ほかは全長4m以下で,アフリカ南西部のアンゴラニシキヘビP.anchietaeは全長1.5mに過ぎず,西アフリカのボールニシキヘビ(ローヤルパイソン)P.regiusも1~1.8mの小型種で,おどろくとまるくなるが,人間にいじめられたりすると頭を中にして手のひらに乗るほど小さくなる。ニシキヘビ類は胴が太く尾は短く,体背面は細鱗に覆われる。眼が小さく瞳孔は縦長で,上唇板にピット器官が並ぶ。総排出腔の両側にはつめ状の後肢の痕跡があり,交尾時に雄はこれで雌の背中を引っかき,交尾行動を触発する。
行動は一般のヘビに比べてにぶく,胴をのばしたままほふく前進する。熱帯降雨林の水辺やサバンナにすみ,大型種は地上性であまり木に登らない。胴で締める力が強い。餌はレイヨウ,サル,オオコウモリ類などの哺乳類や鳥類で,人家付近にも出没して家畜をとらえるが,人を襲うことはきわめてまれなケースといえる。卵生で,産卵数は小型種で約5~15個,大型種で約30~100個で,雌が抱卵して保護し,50~80日ほどで孵化(ふか)する。インドニシキヘビなどが皮革製品用として大量に捕獲され,一部が減少のため保護の対象となっている。他属のニシキヘビ類はすべて全長1~2.5mほどの小型で,美しい緑色をしたニューギニアのグリーンパイソンChondropython viridisはまったくの樹上性で,ボア亜科のエメラルドボアCorallus caninusに類似する。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報