ハサビス(読み)はさびす(その他表記)Demis Hassabis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハサビス」の意味・わかりやすい解説

ハサビス
はさびす
Demis Hassabis
(1976― )

イギリスコンピュータ科学者、認知科学研究者。ロンドン生まれ。1997年ケンブリッジ大学を卒業、ビデオゲーム開発会社ライオンヘッド・スタジオに入社し、AI人工知能プログラマーを率いるリードプログラマーとして活躍した。1998年に同社を去ると、エリクサー・スタジオを創設し、最高経営責任者(CEO)に就任した。2005年に同社を辞して、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに入学し、2009年認知神経科学の分野博士号を取得。同年からアメリカマサチューセッツ工科大学MIT)、ハーバード大学で博士研究員として、研究生活を本格化させた。2011年にはAIを駆使し、学習機能を高める機械学習を発展させるスタートアップ企業ディープマインド社DeepMind Technologies Ltd.を創設し、CEOに就任した。同社は、2014年にグーグル社に売却されて社名がグーグル・ディープマインド社Google DeepMind Technologies Ltd.に変更されたが、引き続き同社のCEOを務めることになった。

 ハサビスは幼少よりチェスやプログラムに興味をもち、17歳のときに、ゲーム開発会社ブルフロッグ・プロダクションでAIプログラマーとして、「テーマパーク」などのヒット商品を開発した。その後もヒット商品を世に送り出しているが、ディープマインド社時代に、AIを駆使して開発した囲碁ソフトウェアアルファ碁」が、2016年に世界のトップ棋士を破ったことで世界をあっといわせた。しかし、ハサビスが興味をもったのは、長年の科学的課題とされる、タンパク質立体構造予測について、AIを使って解決することだった。20種類のアミノ酸からつくられるタンパク質の立体構造の解明は、その機能を知り、創薬などに生かすのに不可欠だった。

 ハサビスは、タンパク質の構造をAIを駆使して予測する、「AlphaFold(アルファフォールド)」を開発。2018年にタンパク質の構造予測のために世界中の研究者が腕を競うコンテスト「CASP(Critical Assessment of protein Structure Prediction、タンパク質構造予測精密評価)」の第13回大会に参加すると、AlphaFoldを使って60%の精度で立体構造を予測し、世界的に注目された。しかし、実際に創薬などに生かすには90%以上の精度が必要であったため、ハサビスらは、グーグル・ディープマインド社に2017年に入社した研究員のジョン・ジャンパーらとともに、「AlphaFold」を改良した「AlphaFold2」を開発した。「AlphaFold2」では、生物が進化する過程で、離れた位置にあるアミノ酸がともに変化する「共変異」という現象を、構造予測に生かす方法として採用。さらに、共変異がどこでおこるかは、不確定な要素があるため、ハサビスらは、言語処理などに使われる深層学習(ディープラーニング)のニューラルネットワークを使ったソフトウェア「Transfomer(トランスフォーマー)」を用いて、共変異のおこりやすい場所を特定する精度を高めた。2020年、CASPの第14回大会に登場した「AlphaFold2」は、アミノ酸の一次配列から、90%の精度でタンパク質の立体構造を予測し、X線結晶構造解析の精度とほぼ一致する成果を示した。「AlphaFold2」は、世界中のタンパク質研究者約200万人に必須(ひっす)のソフトとなっている。2024年には、その後継ソフトで、タンパク質と他の生体内分子との相互作用を予測できる「AlphaFold3」を発表した。

 ハサビスは、2014年イギリス王立協会ムラード賞を受賞。2016年には科学誌『ネイチャー』の「今年の10人」に選出され、2020年ピウス11世メダル、2021年IRIメダル、2022年ワイリー賞、アストゥリアス皇太子賞、2023年生命科学ブレイクスルー賞、ガードナー国際賞、ラスカー基礎医学研究賞を受賞。2024年には、慶応医学賞、クラリベイト引用栄誉賞のほか、同じグーグル・ディープマインド社のジョン・ジャンパーとともに「コンピュータを用いたタンパク質の構造予測」の業績でノーベル化学賞を受賞した。同じくAIを駆使して、「コンピュータを用いたタンパク質の設計」で成果をあげたアメリカのワシントン大学のデビッド・ベイカーとの同時受賞であった。

[玉村 治 2025年2月14日]

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