日本大百科全書(ニッポニカ) 「立体構造」の意味・わかりやすい解説
立体構造
りったいこうぞう
space frame
一つの建築空間を形づくるのに、トラスやラーメンなどの平面骨組を併立させ、それらを互いに連結する方法を採用せず、当初から構造部材の三次元的な配列を計画した構造をいう。最近ではスペースフレームという呼称が一般になじまれている。屋内体育施設や屋内集会場のように大きな内部空間を必要とする建築物では、建物の目的や機能上、柱の本数や位置に制約のあることが多いので、施設の周辺部に柱や壁を寄せ、それらによって大張間の屋根を支持するような立体構造がよく用いられる。すなわち、大きな梁間(りょうかん)を線材で架け渡そうとすると、その部材には大きな曲げモーメントが働き、断面設計が困難となるので、曲面構造などの立体構造を採用することが多い。たとえば薄くて軽量の曲面版(シェルshell)の面内力で荷重を受け持つように設計したり、吊(つり)屋根構造によりワイヤ(鋼索)の抗張力に頼るサスペンションsuspension工法など多様な構造法がある。また、気密な天幕で大空間をすっぽりと覆い、天幕の下面(内面)の気圧を外気圧よりすこし高く維持することによって所定の屋根形状を保全するニューマチックpneumatic構造(別名、空気膜構造大空間建築物)も実用化されている。
[金多 潔]
空気膜構造の例
アメリカ、ミシガン州のデトロイト市近郊の「ポンティアック・シルバードーム」は明るい透光性の大屋根にすっぽりと覆われた競技場で、長さ235メートル、幅183メートル、天井の高さ62.5メートルの巨大な空間を包含する。これはポンティアック市が厳しい冬の寒さを避けて市民にスポーツや催し物を行う場を提供する目的で1975年に建設したもので、最近では全米プロ・フットボール王座決定戦である「スーパーボウル」もここで行われている。シルバードームの客席数は8万600で、日本の甲子園球場の客席数を上回る。このドームの屋根材は、グラスファイバーにフッ素樹脂加工を施した天幕で、屋外の自然光を透過し、屋根の存在をそれほど感じさせないのが特色とされており、風の強い厳寒の季節でも屋内気温を21~24℃に保てる。膜屋根自体が構造材、仕上げ材、防水材としての多機能をもち、屋根の重量は1平方メートル当り約10キログラムと、従来の屋根材料の数10分の1の軽さのため、屋根を支える柱の間隔が広くとれ、大空間を実現できる。密閉された室内空間に絶えず少量の空気を送り込み、内部の空気圧を外気圧より0.3%程度高め、膜屋根を支持する密閉型施設である。1970年(昭和45)に大阪の千里丘陵で開かれた万国博覧会におけるアメリカパビリオンにもこの空気膜構造が採用された。1988年、東京に空気膜構造の屋根を設けた全天候の「東京ドーム」が完成した。
[金多 潔]
曲面板構造など
鉄筋コンクリートや鋼材、プラスチックなどを主要構造材料とする曲面板構造(シェル構造)では、曲面板の部分の形状によって球形シェル(殻)、筒形シェル、推動シェルなどとよばれ、また双曲線的放物面(ハイパーボリック・パラボロイド、HPと略称する)の一部を切り出した形のHPシェルがよく用いられている。さらに、鋼製立体トラスにより巨大な球形空間や半球面を構成するフラードームなども立体構造物の例である。
[金多 潔]
『日本鋼構造協会編『吊構造』(1975・コロナ社)』▽『バックミンスター・フラー他著、木島安史他訳『バックミンスター・フラーのダイマキシオンの世界』(1978・鹿島出版会)』