化学辞典 第2版 「ハートリー-フォック法」の解説
ハートリー-フォック法
ハートリーフォックホウ
Hartree-Fock method
多電子系の一体近似に波動関数の反対称化を考慮した量子力学の代表的近似計算法.多電子系のシュレーディンガーの波動方程式を解く際,複数の電子どうしの反発を含めたままでは方程式を解くことは困難である.そのため電子1個だけに注目し,ほかの電子からのクーロン反発は,それら電子のつくる電子雲による反発として取り扱う近似が使われる.このような近似を一体近似,あるいは一電子近似という.電子雲を表現するための波動関数は前もって仮定するので,一体近似で反発を含めて計算したのちに得られる波動関数とは違ってくる.そこで計算後に得られた波動関数を使ってもう一度電子雲をつくり計算する.その手続きを繰り返すと,仮定した波動関数が計算後の波動関数とほとんど同じになる.この状態を自己無撞(どう)着場,あるいはつじつまの合う場(SCF:self-consistent field)とよぶ.ここまでの手続きをD.R. Hartreeが行ったので,ハートリー近似という.ハートリー近似では波動関数が反対称化されていなかったので,V.A. Fockは波動関数としてスレーター行列式を使ってハートリー近似を改良した.これがハートリー-フォック近似である.スレーター行列式を使うため,クーロン反発積分のほかにさまざまな交換積分が計算に入ってくるが,物理的な意味ははるかに深まる.この計算法は分子にも拡張され,いろいろな工夫が加えられて,多種多様な近似法が出現している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報