化学辞典 第2版 「バナジウム化合物」の解説
バナジウム化合物
バナジウムカゴウブツ
vanadium compound
バナジウムの酸化数は通常は2~5であるが,-1,0も知られている.電子配置 d0 の VⅤを除いて一般に有色で常磁性である.VⅤ化合物は反磁性で,無色~淡黄色のものが多い.多数の錯化合物が-1~5にわたって合成されている.V-Ⅰには [V(CO)6]-,[V(bpy)3]-,V0 には[V(CO)6],[V(bpy)3],VⅠには [V(bpy)3]+(bpy = 2,2′-bipyridine),VⅤには [VF6]-,[VO(NO3)3],[VOCl5]2- などがある.VⅡおよび VⅢのイオンは還元剤であり,容易に VⅣに空気酸化される.VⅤのイオンは鉄粉やCO,SO2のような穏やかな還元剤で VⅣに還元されるので VⅣがもっとも安定な酸化状態である.VⅣ O2+は非常に安定で,[VOX4または5]型の多数の青~緑色の錯化合物や,キレート化合物が知られている.水溶液中のバナジウムは,酸化数や pH などに応じて,次のような異なったイオン種が存在する.[VⅡ(H2O)6]2+(青紫色),[VⅢ(H2O)6]3+(青色),VⅣ O2+(酸性,青色),VⅤ O2+(酸性,淡黄色),[VⅣ4O9]2-(アルカリ性,黄褐色),[VⅤO4]3-(アルカリ性,無色)など.水溶液中では VⅡが最低酸化状態である.酸化物は低酸化数のものほど塩基性が強く,高酸化数のものほど酸性が強い.バナジウムは,C,H,N,Si,Ge,P,As,Se,Teなどの多くの原子を取り込んで,硬く,融点の高い(2000~3000 ℃)侵入型,金属間化合物をつくる.合金としてもっとも重要なものは,35~80% のVを含有するフェロバナジウムで,抗張力性,耐熱性,靭性,耐摩耗性にすぐれたバナジウム鋼製造用として鉄鋼に添加される.V-C合金もバナジウム鋼製造用に利用される.バナジウム鋼は高抗張力鋼,構造用鋼,高速度鋼として使用される.高抗張力鋼は自動車用鋼鈑や化学プラント用ラインパイプ,船舶・橋梁用に広く利用されている.Ti,Alとの合金はジェットエンジン,ミサイル,ガス・タービンなどの軽量耐熱材料に利用されるほか,ゴルフクラブ用にも使用されている.五酸化バナジウムV2O5はフェロバナジウムの製品原料,硫酸製造触媒,有機酸製造触媒,顔料に用いられる.五酸化バナジウムは劇物指定,PRTR法・第一種指定化学物質である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報