日本大百科全書(ニッポニカ) 「バリアフリー映画」の意味・わかりやすい解説
バリアフリー映画
ばりあふりーえいが
視覚や聴覚に障害のある人も鑑賞できるようにくふうされた映画。「映画のバリアフリー化」「バリアフリー版映画」ともいう。バリアフリー映画は目や耳の機能が衰えた高齢者や学習障害がある人の鑑賞を支援することにも役だつとされている。
聴覚障害者に対しては、字幕をつける方法や、手話通訳を配置する方法がある。字幕は比較的容易につけられるため、ボランティアなどの協力を得て、全国の図書館やボランティア団体の主催するバリアフリー映画上映会が行われているが、字幕つきで劇場公開される映画は1%程度にとどまる。視覚障害者に対しては、台詞(せりふ)の合間にストーリーや情景について副音声(音声ガイド)を入れる方法がある。しかし、音声ガイドを入れるためには映画制作者側の協力や制作費用が必要であるほか、劇場側にも音声ガイドを聞くための環境が必要であるなど、課題は多い。一方で、市販用の映画DVDにガイドをつける場合は費用も安価で導入しやすいため、バリアフリー版のDVDを制作する動きが広がっている。
新たな方法として、スマートフォンや眼鏡型端末といった情報機器を使うことで、劇場側に特別な視聴環境がなくてもバリアフリーに対応できる上映方法が試みられている。これには上映する作品の音声にあらかじめ埋め込んだ電子透かし(電子識別情報)を使用する。特殊な音域を使用するため人の耳では聞き取れない識別情報をスマートフォンのマイクで拾い、アプリに認識させると、イヤホンで場面に合わせた音声ガイドを聞くことができる。また、聴覚障害者向けには、スマートフォンの画面や眼鏡型端末に字幕を映し出すことも可能である。
アメリカでは、1990年に障害者差別を禁じたアメリカ障害者法が制定されているため、バリアフリー映画が広く上映されている。映画館が眼鏡型端末を配備し、電子識別情報を使って上映する動きも進んでいる。
[編集部]