身体、視覚、知的などの障害がある選手が取り組むために考案されたスポーツ。テコンドーとバドミントンが新たに採用された東京パラリンピックは22競技が実施され、8月25日から9月6日まで行われる。視覚障害者の柔道や車いすテニスなどは既存のスポーツのルールを変更して実施。アイマスクをしてプレーするゴールボールや、重度障害者用に開発されたボッチャなど独自の競技もある。
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出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
一般のスポーツをベースに障害の種類や程度に応じてルール等をくふうしているスポーツ、障害のある人のために考案されたスポーツ、障害の有無に関係なく、ともに楽しめるスポーツなどの総称である。教育や福祉、リハビリテーションや楽しみのためなどさまざまな目的で行われているが、より活動的で明るいものとしてイメージできるよう障害者スポーツにかえてパラスポーツという呼称が使われ始めた。2021年(令和3)10月1日には、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会の名称が公益財団法人日本パラスポーツ協会に変更となった。
障害のある人が行うからといって特別なスポーツということではない。スポーツを行う人の特徴から子供のスポーツ、女性スポーツ、高齢者スポーツというように分類したときに、障害のある人が行うスポーツを障害者スポーツとよぶことがある。しかしながら、視覚障害者の自転車競技のパイロット(2人乗り自転車の前に乗る人で晴眼者であることが多い)や車いすダンスのスタンディングパートナー(車いす使用者と組む障害のないパートナー)などのように、障害のない人がいっしょにスポーツを行う場合もあることから、厳密には障害者だけが参加するスポーツとはいえない。
パラ陸上競技や、パラバドミントン、パラアイスホッケーなどもパラスポーツ同様、もう一つの陸上競技、もう一つのバドミントン、もう一つのアイスホッケーという意味で障害者のための競技であることを表している。
類義語にアダプテッドスポーツadapted sports、ディサビリティスポーツdisability sports、バリアフリースポーツbarrier free sports、ユニバーサルスポーツuniversal sportsなどがある。
これらのうち、アダプテッドスポーツとは、スポーツを行う人の身体状況や発達段階に応じて既存のスポーツのルールや用具、技術などを修正・変更して実施されるものをいう。女性がバレーボールをするとき、男性よりも低いネットを使ったり、子供がスポーツを行うとき大人より小さなコートやボールを使ったりするが、これと同様に障害のある人がスポーツをするときには、障害に配慮した形でスポーツを行う。たとえば、車いすテニスではツーバウンドのボールまで打ち返してよいし、視覚障害のある人の柔道では対戦する2人が組み合った状態から試合が始まる。ただし、障害者が既存のルール等を修正してスポーツを行うとき、その修正は最小限にとどめることが求められる。
バリアフリースポーツやユニバーサルスポーツは、障害の有無に関係なく参加するスポーツをさすことが多い。勝敗のあるゲームの場合、障害のある人にも障害のない人と同様に勝つチャンスがなくてはならない。
障害者が行ったスポーツとして、1880年ロンドンにおいて、両腕に杖(つえ)を持った片足を切断した人2人がビクトリア女王の前で競走したという記録があるが、多くの国で障害者が統一されたルールのもとでスポーツを行うようになったのは20世紀になってからである。世界で初めての障害者のスポーツ組織は1888年にドイツで設立された聴覚障害者のスポーツクラブとされている。1910年にこのクラブはドイツ聴覚障害者スポーツ協会となった。また、1928年にはドイツに視覚障害者のスポーツ団体が設立されている。イギリスでは1922年に肢体不自由者のための身体障害者自動車クラブが設立され、1932年には片腕のゴルファー協会が設立されている。世界で初めての国際的な障害者スポーツ組織は1924年にパリに設立された国際ろう者スポーツ委員会(ICSD:International Committee of Sports for the Deaf)であり、同年に初の国際障害者スポーツ大会を開催した。
第二次世界大戦前にも、このように障害者スポーツの組織的展開は散見されるが、その世界的発展は大戦以降となる。戦争で負傷した多くの人々のリハビリテーションやレクリエーションとしてスポーツがとり入れられ、その後、競技スポーツとして発展した。
第二次世界大戦後、1950年代初頭にはフランス、オーストリアなどヨーロッパ各地で身体障害者のスポーツ協会が設立された。その後、国際的スポーツ交流が促進され、障害別の国際的なスポーツ団体も設立された。そのなかで最初に発足したのが、国際ストーク・マンデビル競技連盟(ISMGF:International Stoke Mandeville Games Federation)である。対麻痺(ついまひ)者(脊髄(せきずい)損傷などにより両脚が麻痺している人)で車いすを利用する人のスポーツ団体として1952年にイギリスのエールズベリーAylesburyに発足し、第1回国際ストーク・マンデビル大会を開催した。以降、毎年開催され、1960年にはその年のオリンピックの開催地でもあったローマで第9回大会を開いた。1989年国際パラリンピック委員会設立後、このローマの大会を第1回パラリンピック大会と認定した。また、初めての冬季パラリンピック大会は1976年にスウェーデンで開催された。
アジア地区では1974年に医師の中村裕(ゆたか)(1927―1984)らの尽力により極東・南太平洋身体障害者競技連盟(FESPIC(フェスピック):Far East and South Pacific Games Federation for the Disabled)が組織され、翌1975年(昭和50)には大分県で第1回FESPIC大会を開催した。その後FESPICは9回大会(2006年、クアラルンプール)まで開かれた後に解散し、パラリンピックのアジア地区組織、アジアパラリンピック委員会として再出発した。
国内では視覚障害者と聴覚障害者のスポーツについては明治、大正期から当時の盲学校や聾(ろう)学校等の体育として行われていた。そのなかから、サウンドテーブルテニスやグランドソフトボール(いずれも視覚障害者用のスポーツ)といった障害に応じたスポーツが生まれた。それを課外体育や部活動でも行うなかで、校内大会や地区大会が開催されるようになり、全国大会へとつながっていった。しかし、視覚障害スポーツに関しては、児童・生徒数の減少やルールの複雑さなどから大会運営が困難となり、結局、全国大会は中止となったが、同じころ開催されるようになった全国身体障害者スポーツ大会のなかで同様の競技がふたたび実施されるようになる。聴覚障害スポーツは学校関連の競技団体とともに聾者自身によるスポーツ組織がつくられ、聴覚障害の選手の受け皿となり、今日に至っている。しかし、肢体不自由児は学校では運動やスポーツが免除される対象であり、また、聴覚障害や視覚障害と比べて障害が多様で、運動制限が大きいこともあり、学校体育から競技スポーツへの展開はみられなかった。肢体不自由者を対象としたスポーツが全国で実施されるようになるのは、1964年に開催された第2回夏季パラリンピック東京大会(当時の正式名は国際身体障害者スポーツ大会)の運営委員会の財産を引き継ぎ、1965年に財団法人日本身体障害者スポーツ協会(現、日本パラスポーツ協会)が設立されて以降である。
日本身体障害者スポーツ協会はその後、全国身体障害者スポーツ大会(現、全国障害者スポーツ大会)のほか、各種障害者スポーツ大会の主催や、障害者スポーツ指導者の養成など、日本の障害者スポーツ発展の中心組織となった。1992年(平成4)には全国知的障害者スポーツ大会(ゆうあいピック)が開催されるようになった。2001年(平成13)にはこの大会と全国身体障害者スポーツ大会が統合され、現在の全国障害者スポーツ大会となった。
2011年に施行されたスポーツ基本法のなかでは、障害者のスポーツの振興についても言及された。また、2014年には従来、厚生労働省の管轄であった障害者のスポーツが、リハビリテーションなど一部を除き文部科学省の管轄となり、翌2015年10月以降はスポーツ庁が所管している。これにより、それまで障害者福祉施策の一環として推進されてきた障害者スポーツは、国のスポーツ施策の一環として振興、展開されることになった。これを受け、都道府県、政令指定都市でもパラスポーツをスポーツ局等、首長部局として一般スポーツと同じ組織で管轄するところが増えてきた。
[藤田紀昭 2021年10月20日]
『中川一彦著『身体障害者とスポーツ』(1976・日本体育社)』▽『総理府内閣総理大臣官房内政審議室編『平成9年版 障害者白書』(1997・大蔵省印刷局)』▽『日本体育学会監修『最新スポーツ科学事典』(2006・平凡社)』▽『藤田紀昭著『障害者スポーツの環境と可能性』(2013・創文企画)』▽『森川洋・金子元彦・和秀俊編著『障害者スポーツ論』(2014・大学図書出版)』▽『藤田紀昭監修『パラスポーツ大百科』全6巻(2020・岩崎書店)』▽『田中圭太郎著『パラリンピックと日本――知られざる60年史』(2020・集英社)』▽『高橋明著『障害者とスポーツ』(岩波新書)』
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