ヒゲカビ(読み)ひげかび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒゲカビ」の意味・わかりやすい解説

ヒゲカビ
ひげかび
[学] Phycomyces

接合菌類、ケカビ目ヒゲカビ属のカビで、デンプン質の食品や草食動物の糞(ふん)上によくみいだされる。ヒゲカビはとくに胞子嚢柄(のうへい)が30センチメートルに達するほど長く、カビ類のなかでは最長である。和名は、菌糸が銀白色で比較的に太く、老人の長いあごひげのようにみえることによる。胞子嚢は球形、成熟すると黒色となるので肉眼でも確認できる。柱軸(中軸)は、通常、倒卵形である。胞子嚢柄は、光の方向に伸長するという正の屈光性を示す。有性生殖は雌雄異株の配偶子嚢接合により、接合胞子(接合子)を形成する。ヒゲカビは、神仏に供える米飯などに発生するため、古くから知られていた。白井光太郎によれば、1914年(大正3)東京渋谷の稲荷(いなり)の祠(ほこら)に供えた赤飯に「毛ヲ生ズ」という記録があるという。これは鏡検によるヒゲカビの確認と考えられる。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒゲカビ」の意味・わかりやすい解説

ヒゲカビ(鬚黴)
ヒゲカビ
Phycomyces nitens

藻菌類接合菌類ケカビ目ケカビ科の糸状菌。草食動物の糞などに最もよく発生する。日本での記録としては,放置した赤飯,卯の花 (豆腐のしぼりかす) などに生えたこともある。冷温を好み,夏期には生育しにくい。基質上の菌糸から太くて長い (径 50~150μm,10~30cm) 菌糸が立上がって胞子嚢柄となる。その頂端に径 0.3~1mmの球形の嚢をつけ,中に無数の黒色,腎臓形ないし楕円形の胞子を生じる。胞子嚢柄は青みを帯びた灰色光沢がある。ちょうど老人の長い白鬚のようなのでこの名がつけられた。雌雄異体であるが,両性の菌糸が基質上に伸長して両者が遭遇するとそれぞれの菌糸から小枝を生じ,その先に配偶子嚢をつけ,それが直接に接合して接合子を形成する。このカビはビタミンBを好むことで有名である。

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