ビスマス化合物(読み)ビスマスカゴウブツ

化学辞典 第2版 「ビスマス化合物」の解説

ビスマス化合物
ビスマスカゴウブツ
bismuth compound

通常のビスマスの酸化数は3と5である.Bi化合物:酸化物,水酸化物,硫化物,ハロゲン化物,オキソ酸塩などがある.Bi2O3は金属または炭酸塩を空気中で750~800 ℃ に加熱すると得られる融点824 ℃ の固体で,淡黄色の単斜晶(α),黄色の正方晶(β),および灰金色の立方晶(δ)の三つの相があり,α相は710 ℃ でδ相に,650 ℃ まで冷却すると準安定のβ相に転移する.塩基性酸化物で,酸に溶けて塩をつくる.BiF3(無色)はイオン性でかなり安定であるが水に不溶,ほかのトリハロゲン化物は分子性で有機溶媒に可溶,潮解しやすく,加水分解してハロゲン化酸化物BiXO(X = ハロゲン)となる.また硝酸塩,硫酸塩,過塩素酸塩も加水分解しやすい.ビスマス溶液からH2Sにより硫化ビスマス(Ⅲ)Bi2S3(黒褐色)が析出する.複硫化物イオンの形成は遅く,硫化ビスマスを硫化ヒ素硫化アンチモンから,この性質を利用して分離することができる.BiH3 は沸点17 ℃(外挿)で非常に不安定である.ビスマスは多くの錯化合物をつくる.たとえば,ビス(スルファト)ビスマス(Ⅲ)塩M[Bi(SO4)2]やトリス(オキサラト)ビスマス(Ⅲ)塩M3[Bi(C2O3)2]などである.有機Bi化合物として,R3Bi,RBiX2(Rはアルキルまたはフェニル)などが知られている.Bi化合物:酸化数5のビスマス化合物はまれで,酸化物,フッ化物,ビスマス酸塩などがある.酸化物は非常に不安定である.黒褐色のBi2O5はBi2O3をアルカリ水溶液中に懸濁し,塩素,臭素などで酸化すると得られるが,希酸には溶けず濃酸には徐々に解ける.0 ℃ でNaOH水溶液からメタノールで抽出するとNaBiO3が得られる.ビスマス酸塩MBiO3は強力な酸化剤である.BiF5はいちじるしく昇華性の固体で,水とはげしく反応する.強力なフッ素化剤として用いられる.有機Bi化合物がAg[BiF6],R5Bi,R3BiX2(Rはフェニル)など多数合成されている.鉛,スズ,カドミウムとの合金(易融合金)は融点が100 ℃ 以下で,防火用スプリンクラーなどに用いられる.スズ,銀,銅などとの合金は無鉛はんだとして電子機器に使われている.アクリル酸,メタクリル酸製造目的のプロペン酸化には,モリブデン,コバルト,ビスマスを主成分とした複合酸化物触媒が用いられる.塩化酸化ビスマスは色素添加物としてパール系化粧品に使われる.Bi2Sr2Ca2Cu3O10は110 K で超伝導状態になる高温超伝導体である.ほかに鉛,アンチモンを含むビスマス系高温超伝導体がある.有機ビスマス化合物は触媒または触媒の原料として用いられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android