改訂新版 世界大百科事典 「ビレルメ」の意味・わかりやすい解説
ビレルメ
Louis-René Villermé
生没年:1782-1863
フランスの医学者。19世紀フランスで公衆衛生学を社会の医学として確立させた。産業化の進展のなかで生み出される社会的病理を,調査と統計によって明らかにし,社会問題は医学によって解決されるという当時のフランス医学が到達した一つの視点を代表している。1804年に医師として軍務につき,14年軍医に任官,外科医として活躍する。ナポレオン没落後,開業医となるが,18年ころから医学の実務に失望して,公衆衛生学と統計学の研究を行った。23年に医学アカデミー会員となり,32年には推されて人文・社会科学アカデミーAcadémie des Sciences morales et politiques会員となった。この間,監獄の状態や囚人の死亡率の調査,人口構成や出生率,新生児死亡率などの研究を発表し,例えば30年の論文ではパリ各区の死亡率の相違が,各区住民の貧富の差と明確に対応していることを統計的に明らかにした。31年から36年まで。パリ警視総監のもとに置かれていたパリ衛生審議会の委員となり,32年のコレラ流行に際し,その調査に加わって,重要な統計的記録を残した。37年には人文・社会科学アカデミーの委嘱によって,繊維工業労働者の状態調査に従事し,40年《繊維工業労働者の身体と精神の状態》(2巻)を公刊した。この研究は現在でも史料として注目されている。
執筆者:喜安 朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報