改訂新版 世界大百科事典 「フォルトゥナトゥス」の意味・わかりやすい解説
フォルトゥナトゥス
Venantius Honorius Clementianus Fortunatus
生没年:530ころ-610ころ
中世初期のラテン詩人。北部イタリアのトレビゾに生まれ,ラベンナで教育を受けた。青年時代に故郷を去り,フランス各地を歴訪。565年ころポアティエでフランク王家の宮廷に迎えられた。このころトゥールの司教グレゴリウス,フランク王クロタール1世の前夫人で修道院の設立者ラデグンダ,その養女アグネスなどの知己を得た。この王女たちとの友情が彼をこの地にとどめ,後年同地の司教となった。作品には,叙事詩体の《聖マルティヌス伝》その他の聖人伝もあるが,彼の名声を基礎づけたのは献詩,頌詩,聖歌などである。これらは《雑詠集》11巻を成す。世俗的なものから宗教的情熱に満ちた詩まで,多岐にわたる。中でも2編の聖十字架の詠誦,〈王者の旗は進む〉,〈歌え,我が舌よ,栄光の戦いを〉は有名である。彼の詩は古典的色彩が強いが,詩法において音量から強音を基礎とする詩への転換期に立つ。
執筆者:高橋 通男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報