フリッグ(読み)ふりっぐ(その他表記)Frigg

翻訳|Frigg

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フリッグ」の意味・わかりやすい解説

フリッグ
ふりっぐ
Frigg

北欧神話の主神オーディンの妻でバルドルの母。フェンサリルの館(やかた)に住む。オーディンが不在のとき、彼の兄弟であるビリとベーの妻になったといわれ、これはサクソの『デンマーク人事誌』に語られているフリッグの不貞とも符合する。バルドル神話では、わが子バルドルが生命にかかわる不穏な夢をみたとき、彼女はすべてのものにバルドルを傷つけることのないよう誓わせる。しかしそれにもかかわらず、ロキ奸計(かんけい)によって盲目のホズルが放った矢によってバルドルが殺されると、ヘルモッドを冥府(めいふ)ヘルに派遣してバルドルを取り戻させる。『エッダ』の「グリームニルの歌」には、オーディンとフリッグの2人の養子の王子のうち、オーディンの養子ゲイルロズが兄を殺して王となったのに復讐(ふくしゅう)するため、フリッグがオーディンとゲイルロズの仲を裂く話がある。フリッグは全ゲルマン人の間に知られた女神で、その名は「愛された者」を意味し、金曜日Friday, Freitag(フリッグの日)はその名残(なごり)である。

[谷口幸男]

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百科事典マイペディア 「フリッグ」の意味・わかりやすい解説

フリッグ

北欧神話の女神。フリッガFriggaとも。オーディンの妻,バルドルの母として女神の中では最高位を占めるが,フレイヤほど広くは崇拝されていない。ローマの愛と美の女神ウェヌスと同一視され,英語Fridayにその名を与えている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フリッグ」の意味・わかりやすい解説

フリッグ
Frigg

ゲルマン神話の女神。神々の王オーディンの妻で,結婚と家庭内における主婦の地位の守護女神。帯にこの機能を象徴する鍵の束を下げ,フラ女神をはじめ多くの侍女たちを指揮しながら,フェンサリルと呼ばれる壮麗な宮殿に住み,そこに地上で正しい生活をおくった夫婦たちを死後迎え幸福に暮させる。バルドル,ヘズル,ヘルモズらの諸神の母親。金曜日を意味する英語 Fridayは,元来はフリッグの日を意味した。

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世界大百科事典(旧版)内のフリッグの言及

【アース神族】より

… アース女神も多数かぞえられる。フリッグFrigg(オーディンの妻),フレイヤ,イズンIðunn(ブラギの妻。若返りのリンゴの管理者),シブ(トールの妻。…

【アングロ・サクソン人】より

…初期の社会はすでに明確な階級社会の段階にあり,大土地所有者である王・貴族と,従属的農民層からなり,ほかにかなり多数の奴隷も存在したが,半面なお〈目には目を〉の血の復讐を社会正義の基本となす氏族制的性格をもとどめていた。宗教も他のゲルマン諸族と共通の自然崇拝的多神教で,ウォードゥン(主神,軍神,商業の神),ズーノル(雷神),フリッグ(結婚・家庭の神)などの諸神を信仰の対象とした。8世紀ころ成文化されたといわれるその最古の長編叙事詩《ベーオウルフ》には,現実感覚にすぐれ,沈鬱,重厚,運命を甘受する初期の雄渾な民族精神がよくあらわれている。…

【オーディン】より

… 神としてのオーディンは,北欧のエッダスカルド詩にとくに生彩をもって叙述されているが,スノッリ・ストゥルルソンの《ユングリンガサガ》では,アースガルズを支配する常勝の王,供犠(くぎ)司祭として魔術に長じ,姿を自在に変えられる歴史的存在として描かれている。エッダによれば,オーディンはボルと女巨人ベストラの子で,妻のフリッグFriggとの間にバルドルをもうけたほか,多くの女巨人との間にトールやチュール,ヘイムダルなどのアース神(アース神族)を息子としてもつ。天上のバルハラ宮殿に住み,高座フリズスキャールブに座って全世界を見はるかす。…

【サギ(鷺)】より

…またサギはオシリスの心臓から飛び立ったともいわれ,そのために再生の象徴であるフェニックス(フォイニクス)と混同されることもある。一方,北欧神話では,未来のできごとを知り尽くしながら沈黙を守る女神フリッグが冠にサギの羽を差していたことから,この鳥が沈黙の象徴とされた。これがキリスト教世界に受け継がれ,沈黙の寓意として石をくわえたサギが描かれるようになった。…

【シラカバ(白樺)】より

…【深津 正】
[ゲルマンの民俗]
 生長の早さ,しなやかな枝,白い樹皮のためか,シラカバ(オウシュウシラカバ)は古来ゲルマン人の間で生命,生長,祝福の木とされた。このことは,女神フリッグFriggの聖樹として緑の枝が門や窓にとりつけられ,愛や喜びの印として入口に飾られたことにも表れている。また五月樹としてモミの木を圧倒していることはドイツ語のMaieという語が〈五月柱〉のほか〈シラカバの若枝〉を表すことからもわかる。…

【バルドル】より

…北欧神話の神。オーディンとフリッグの子。ナンナを妻としブレイザブリークに住む。…

【北欧神話】より

…そのほかに風の動きを支配し海や火を鎮める神ニョルズNjörðr,その子で豊饒と人間の幸福をつかさどる神フレイFreyr,女神フレイヤがいる。女神フリッグFrigg(金曜日Fridayの語源)はオーディンの妻で,二人の間に生まれたのが光の神バルドルである。神々のうちで最も美しく善良で賢いうえに雄弁の神である。…

【ボダイジュ(菩提樹)】より

…現在もアシュバッタに宿る神々の崇拝や,木の枝や葉を用いた呪術は広く行われている。【高橋 明】
[伝承,民俗]
 シナノキ科の菩提樹は,ヨーロッパでも古代から崇拝の対象になっていた木で,ゲルマン人はこれを神聖な木として女神フリッグに捧げた。中世にはこの木の下で裁判や祝祭,忠誠の誓いや結婚式が行われた。…

※「フリッグ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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