ヘル(読み)へる(英語表記)Stefan Hell

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘル」の意味・わかりやすい解説

ヘル(Stefan Hell 物理学者)
へる
Stefan Hell
(1962― )

ドイツの物理学者。ルーマニアアラド生まれ。1978年に当時の西ドイツに移住。1981年にハイデルベルク大学入学、1990年に同大学で物理学の博士号を取得した。論文のタイトルは「共焦点顕微鏡による透過微細構造のイメージング」であり、その後の研究実績に結び付いた。その後ヘルは、共焦点顕微鏡の軸方向の解像度について研究を重ねた。

 1991年からハイデルベルクのヨーロッパ分子生物学研究所で研究し、そこで解像度の高い顕微鏡の開発に取り組んだ。1993年からフィンランドのトゥルク大学医学物理部門のリーダーとなり、レーザー光を使って分子を見ることができる超高解像度のSTED(stimulated emission depletion)顕微鏡の原理を発明した。この業績細胞内部の構造を従来の蛍光顕微鏡よりはるかに高い感度で数十ナノメートルまで観察できるようになり、難病の仕組みの研究に貢献した。2002年から、生物化学マックス・プランク研究所の所長になりナノバイオ化学部門を創設。2003年からハイデルベルク大学物理天文学部の教授となった。2014年「超高解像度の蛍光顕微鏡の開発」の業績で、ウィリアム・モーナー、エリック・ベツィグとともにノーベル化学賞を受賞した。

[馬場錬成 2015年2月17日]


ヘル(Hel 北欧神話の冥府の女王)
へる
Hel

北欧神話冥府(めいふ)の女王。またその支配する死者の国もヘルとよばれる。ロキアングルボザの娘で、主神オーディンによって冥界に投げ込まれた。ヘルは、なかば青色でなかば人肌色をした険しく恐ろしい顔つきをしている。一方、死者の国ヘルは、地下の暗い霧に覆われた寒冷の地にあり、そばをギョル川が流れ、大きな門と高い塀とを備えた館(やかた)とされ、病気や老齢で死んだ者を迎える所である。ヘルはゲルマン語で「隠す」を意味する。

[谷口幸男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘル」の意味・わかりやすい解説

ヘル
Hell, Stefan

[生]1962.12.23. アラド
ルーマニア生まれのドイツの化学者。フルネーム Stefan Walter Hell。ハイデルベルク大学で 1987年に学士号を,1990年に博士号を取得。ヨーロッパ分子生物学研究所の博士研究員,1993~96年フィンランドのトゥルク大学主任研究員を経て,1997年にドイツのマックス・プランク生物物理化学研究所に移り,2002年に同研究所ナノバイオフォトニクス部門の所長に就任した。光の波長の半分より小さいものは見分けられない光学顕微鏡(→顕微鏡),生きたままの細胞を見られない電子顕微鏡の限界を破ろうと超高解像度の顕微鏡の開発に着手し,ケイ光物質をレーザー光で励起させ,発する光を観察するケイ光顕微鏡の原理を利用して研究を進めた。1994年に,目的物周辺部分のケイ光を抑える光(誘導放出抑制光〈STED光〉)をドーナツ型にしてあて,中心部分のケイ光のみを検出できるようにする誘導放出抑制顕微鏡を提唱した。この原理によって,これまでの光学顕微鏡の限界をはるかにこえて 10nmという超高解像度の像を得られるケイ光顕微鏡を開発,細胞の微小構造や蛋白質の移動などを生きたままで観察できるようになった。2014年,この功績によりエリック・ベッツィヒ,W.E.モーナーとともにノーベル化学賞を受賞した。

ヘル
Hel

北欧神話の冥界の女王,ロキと女巨人アングルボザを父母として生れた,恐ろしい怪物で,生れつき身体の半分が黒く,半分は白い。オーディンによってニフルヘイムに追放され,そこでニフルヘルともまた単にヘルとも呼ばれる,病気や老齢によって死んだ死者たちの行かねばならない暗黒の冥府を支配することになった。彼女の住む広大な館はエリュズニルと呼ばれ,その入口を守る番犬はガルムである。

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