内科学 第10版 の解説
フローサイトメトリーによる表面マーカー解析法(表面マーカー)
a.フローサイトメーター
蛍光染色した細胞などの粒子を細い流路に流し,それにレーザー光をあて,放射される散乱光や蛍光を細胞単位で測定する装置である.細胞表面抗原の解析のためには,蛍光標識モノクローナル抗体を細胞と反応させて解析する.細胞に膜透過処理を行って抗体を細胞内に到達させることにより,細胞内抗原の解析も可能である.リンパ節など固形の検体は細切して細胞浮遊液にして用いる.異なった蛍光色素で標識した抗体を組み合わせて用いれば,複数の抗原を同時に解析することができる.散乱光のうち,励起光の進入方向とほぼ同じ方向に放射される前方散乱光(forward scatter:FSC)の強さは細胞の大きさを反映し,直角方向に放射される側方散乱光(side scatter:SSC)の強さは細胞内構造を反映する.FSC,SSC,蛍光のパラメーターを組み合わせて,解析対象の細胞集団を指定(ゲーティング)し,その細胞の抗原を解析する.
b.モノクローナル抗体とCD分類
抗原の解析には,蛍光色素標識モノクローナル抗体を用いる.モノクローナル抗体には統一的CD(cluster of differentiation)番号がつけられている.CD番号は対応する抗原についても用いられる.
c.解析の概略(図14-5-1)
個々の細胞のFSC,SSC,各検出波長の蛍光強度が記録される.FSC-SSCあるいはSSC-CD45などのスキャッタグラム上で,リンパ球,芽球など解析対象の細胞をゲーティングし,それぞれの抗原の陽性率を求める.末梢血のリンパ球は,通常FSC-SSCスキャッタグラムでゲーティングする.芽球を対象とする場合は,SSC-CD45スキャッタグラムを用いる.芽球はリンパ球に比べ白血球共通抗原であるCD45の発現が低いことを利用したゲーティング法である.形質細胞はCD38強陽性であることを利用してゲーティングできる.抗原の解析結果は,縦軸と横軸に異なる2つの抗原の発現を同時に示し,各分画の比率を求める場合が多い(図14-5-1).
d.表面マーカー検査の実際
造血器腫瘍細胞解析は,診断確定や病型診断に必須であるが,その他,治療後の微小残存病変や体腔液など造血組織外に浸潤した造血器腫瘍細胞の検出にも役立つ.造血器腫瘍細胞解析に用いるおもな抗体を表14-5-6,14-5-7に,解析例を図14-5-2に示す. リンパ球サブセット検査では,CD3,CD19(CD20)を指標にT細胞およびB細胞の比率,またCD4陽性細胞(ヘルパー/インデューサー T)やCD8陽性細胞(サプレッサー/細胞傷害性 T)などの比率を求める.[米山彰子]
■文献
米山彰子:表面形質.三輪血液病学,第3版(浅野茂隆監修), pp567-580,文光堂,東京,2006.
米山彰子:フローサイトメトリー.三輪血液病学,第3版(浅野茂隆監修),pp1945-1954,文光堂,東京,2006.米山彰子:細胞表面抗原 スタンダードフローサイトメトリー pp55-79,日本サイトメトリー技術者認定協議会編,医歯薬出版,2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報