化学辞典 第2版 「フーリエ合成法」の解説
フーリエ合成法
フーリエゴウセイホウ
Fourier synthesis
結晶構造解析の一手法.結晶内の電子密度分布ρ(x,y,z)はすべてのhkl面からのX線反射の構造因子F(h,k,l)を係数とするフーリエ級数の和で表される.
ここで,Vは単位格子の体積,αは各反射の位相であり,x,y,zは単位格子の周期a,b,cを単位としてはかった座標である.このようにして得られた図を電子密度図またはフーリエ図という.電子密度図中のピークは原子に対応する.なお,中性子回折では,フーリエ図は原子核または不対電子密度,電子線回折では原子内電場のポテンシャルの分布を示す.フーリエ合成を行うのに必要な|F(h,k,l)|は回折実験で求められるが,位相はわからないので,結晶構造決定のためには位相問題を解く必要がある.なんらかの方法で位相の近似値が得られると,実測の|F(h,k,l)|と位相の近似値とを組み合わせたものを係数としてフーリエ合成を行って密度分布を求め,これを次段階の位相計算に用いる.この過程を繰り返すとフーリエ級数の和は真の密度分布に収れんする(逐次フーリエ法).フーリエ合成法の一つの変形として,差合成法またはD合成法がある.これは
[{|F0| - |Fc|}eiαc]hkl
を係数とするフーリエ合成法である.ここで,添字0は実測値,cは計算値を表す.D合成法には,構造因子計算に用いた密度分布 ρc と真の密度分布 ρ0 との微細な差がはっきり現れる.X線の散乱能の弱い水素原子,結合電子の分布の研究などにこの手法が用いられる.また,タンパク質の結晶解析で,酸素-基質アナログの結合の様子もこの方法で調べられ,酸素の作用の分子的機構の解明に大きく寄与した.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報