日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
プロダクト・ライフ・サイクル理論
ぷろだくとらいふさいくるりろん
product life cycle theory
国際分業パターン決定因および海外直接投資の動態的変化のプロセスを解明しようとした新しい貿易理論で、アメリカの政治経済学者R・バーノンを中心とするグループにより1960年代中ごろに展開された。プロダクト・サイクル論ともいう。
この理論では、工業製品にも人間の生涯と同じように誕生から成長を経て成熟に至るライフ・サイクルがあることを重視し、それを〔1〕市場導入期、〔2〕成長期、〔3〕成熟期の三段階に区分する。〔1〕では、新製品は技術的になお欠点があり、市場の反応を考慮しながら改良が加えられていくため、販売価格は高く、販売量は少ない。この段階での国際分業パターン決定の重要な要因は科学者や技術者の研究開発要因である。〔2〕では、生産物の標準化が進み、販売量も増加し、大量生産や大量流通方式が導入されるとともに、販売競争も激化する。したがって、この段階では技術者よりも経営能力やマーケティング能力が重要な要因となる。〔3〕になると、生産工程は確立され、標準的製品がますます大量に生産される。そのため国際競争力の面では賃金水準が重要な要因となり、未熟練労働者の豊富な発展途上国が生産立地として有利となる。
このように国際分業パターン決定の要因は、生産物のプロダクト・サイクルの各段階において変化していく。したがって新製品開発国は、〔1〕で新製品を生産し輸出したとしても、やがては経営能力やマーケティング能力に恵まれた他の先進国に模倣生産され、輸出されるようになり、新製品開発国の輸出は減少してくる。この場合、新製品開発国は、海外市場確保志向の直接投資への誘因をもつ。他の先進国も〔3〕の段階においては安い労働コスト志向の直接投資への誘因をもつことになる。
[田中喜助]
『L・T・ウェルズ編、柳原範夫他訳『国際貿易と国際経営――プロダクト・ライフ・サイクルと国際貿易』(1976・嵯峨野書院)』▽『小島清著『多国籍企業の直接投資』(1981・ダイヤモンド社)』