発展途上国という言葉が生まれたのは1960年代に入ってのことである。それ以前は,〈後進国backward countries〉〈低開発国under-developed countries,less-developed countries〉という言葉がおもに〈先進国developed countries,advanced countries〉では通常用いられていた。しかし,旧植民地・保護領の独立増大とともに,これら新興国は後進国,低開発国など価値判断を内包した言葉をきらい,1962年,非同盟諸国の首唱の下に〈発展途上国の経済開発会議〉をカイロで開き,それ以降,発展途上国もしくは開発途上国の呼名が定着することになった。発展途上国は,グローバルな場では非同盟諸国会議,77ヵ国グループなどの組織をつくっている。また,地域的レベルでは東南アジア諸国連合(ASEAN),ACP(ECとのロメ協定によるアフリカ,カリブ海,太平洋諸国のグループ),SELA(1975年10月のパナマ協定によって中南米25ヵ国で創設されたラテン・アメリカ経済機構),アラブ連盟などの地域連合を形成している。このほか,OPEC(石油輸出国機構),CIPEC(銅輸出国政府間評議会),東南アジア木材輸出国協議会,イスラム諸国会議など経済的,あるいは政治的,文化的な途上国間の組織も存在する。
発展途上国を特徴づけることとして,通常,発展段階上遅れていたり,発展の停滞している国が,発展の道を歩みはじめ,発達した国に追いつく過程にある状態を指していると考えられる。したがって,進んだ段階にある国は通常〈先進国〉〈発達国〉などと呼ばれる。だが同時に,〈遅れた〉とみられる国・社会においても,独自の発展方向をたどっていることもありうる。古代マヤやアステカの文明,古代インドやアフリカの文明,あるいは〈未開〉といわれる南アメリカのインディオや太平洋島嶼(とうしよ)社会の文明が,それ独自の合理性をもつことは,レビ・ストロース,M.ミードら人類学者が明らかにしているとおりである。
このように考えてみると,〈遅れた〉社会とは,たんに工業化の面で〈先進社会〉に従えられた社会ともいえよう。イギリスの経済学者C.G.クラークの唱えた発展の3段階説は,工業化を軸として,第1次産業が支配的な社会から第2次産業,次いで第3次産業が優勢な社会へと発展が進むというものだが,これは欧米社会の発展パターンを説明するものの,非西欧社会の動きを説明するには十分ではない。実際,1971年,発展途上国の77ヵ国グループ(G77)はペルーのリマに集まり〈リマ宣言〉を発表したが,ここで〈発展の遅れ〉とは次のように説明された。(1)不合理な国際分業により経済構造が不安定な原料供給に特化したこと,(2)先進工業国の貿易・通貨政策に自国経済が依存していること,(3)国内の経済社会構造の低開発性が悪化していること,の3点である。すなわち,発展途上国自体は,みずからの遅れをたんなる自然的な遅れではなく,西欧が課した国際分業体制,経済の対外依存構造,そして低開発性の進展(富や所得の不平等な配分,人口増加,環境悪化等)に求めたわけである。この認識から途上国は,国際社会において独自の発展方策を提起することになる。
新興独立国は,国連ラテン・アメリカ経済委員会(ECLA)を足場にR.プレビッシュが提起した中心・周辺説に基づき,遅れた周辺国が中心国に追いつくためには工業化が必要であると考え,工業化を主要な発展方策と今日までしてきた。1970年時に世界人口の4分の3を占める途上国が世界工業生産に占めるシェアは11%(うち中国4%)にすぎなかったが,そのシェアは2000年時に25%近くなる(うち中国8~9%)とみられる。
この工業化政策にはいくつかの段階がある。1950~60年代には,途上国が輸入している工業製品を自国で生産する輸入代替工業化(繊維,自動車,電機等を対象とする)が主流だった。だが,70年代には,これに代わり国内の安価な労働費用を武器として組立産業製品を輸出する輸出指向工業化,および新国際経済秩序(NIEO)の考え方に基づく自国資源加工化戦略が強まった。この際,先進国市場をめざし,多国籍企業を誘致したアジア等の新興工業国は高い経済成長を実現した。現在途上国の多くはこの三つの戦略を程度の差はあれ,併用している。しかしながら,1960年代以降の急速な工業化の過程で,途上国国内の地域的・社会的格差も拡大し,また公害・環境破壊問題も深刻化してきた。ここから近年途上国の経済計画は多かれ少なかれ,経済社会発展計画として,社会問題を重視するようになってきている。
→経済発展 →南北問題
執筆者:西川 潤
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(室井義雄 専修大学教授 / 2008年)
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…先進国が,発展途上国に資本・技術等を供与して鉱産物や農林水産物の探査や開発を行い,その生産物を輸入することをいう。資源の長期・安定確保と同時に発展途上国の経済発展に寄与しようというものである。…
…現代の世界海運で国旗差別措置を採っている国は,〈自国船優先積取規定〉をもつアメリカぐらいのものであった。ところが第2次大戦後政治的独立をかちとった多くの発展途上国が,1950年代の後半から60年代にかけて経済的自立意識を高め,経済開発と国際収支の改善を図る有力な手段として,自国海運業の育成発展をめざした。これら途上国は,海運業を興すために必要な設備資金も,海運経営知識も,船舶運航技術も,国際市場での営業基盤やのれんも,もちあわせていなかった。…
…1950年代末以降,アメリカ,ヨーロッパ,日本など先進国が,形式的にはいわゆる〈発展途上国developing countries〉の主権を尊重しながらも,実質的にはこれらの途上国を〈半植民地〉的状況におき,途上国(つまり〈新植民地neo‐colony〉)に対する政治的支配と経済的搾取を維持・強化するために再編した植民地支配の新しい体系。 19世紀,欧米や日本の帝国主義列強はアフリカ,アジア,ラテン・アメリカ地域を植民地,半植民地,従属国として従属下においた。…
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