改訂新版 世界大百科事典 「国際経営」の意味・わかりやすい解説
国際経営 (こくさいけいえい)
international management
企業活動の地域的広がりは,(1)自国内のみ,(2)自国と他国にまたがっている,(3)他国のみ,の三つに分類されるが,(3)のタイプはごくまれである。国際経営というのは(2)の経営を指すが,他国での企業活動のウェイトが微々たる場合には,経営全般にさしたる影響を与えないので(きまった定義はないが),通常,総売上げや総資本の2割とか3割を超えたウェイトを他国に伸びた活動領域がもつようになって初めて,実質的に国際経営が生まれてくる。またその場合,他国の数が増えるにつれて,通例,自国のウェイトが減少し,いわゆる多国籍化する(多国籍企業)。企業が活動領域を他国に広げる場合には,そのために自国での活動を縮小させるケースと,自国での活動に付加するケースとの二つが考えられる。前者は,自国内での生産に関して比較優位を失った産業が比較優位を有する国に生産拠点を移していくときにみられる。後者は,強い競争力をもつ産業が,より大きな市場を求めて進出したり,生産工程の一部をコスト的により有利な国に移したりするときにみられる。したがって,後者は企業成長のケースである。前者と後者の経営には当然質的な違いがあるが,国際経営として共通にもつ特質は,法律体系や社会制度の異なる他の国家,人種・言語・慣習を異にする他の文化圏,そしてまた多くの場合,気候・風土が少なからず異なる他の土地に経営の枝葉を伸ばすことから,種々の複雑な問題を抱え込むことである。また複数の通貨圏に業務を広げることから,つねに為替レートの変動に悩まされることになる。
地球上の多くの地域に根を張った企業経営は主として英米の企業によってすでに19世紀には行われたが,真に国際経営と呼びうる形態は,第2次大戦を経て,列強の植民地支配が終りを迎えた後に生まれた,と考えるべきであろう。そして,それら植民地だった新興独立国が発展途上国として成長し,国力をつけ,ときには強いナショナリズムをもち,加えて日本が新たに大きな影響力を世界経済に与えはじめたとき,国際経営は,近代産業社会成立後初めて,特定少数国の支配下から多極的世界に置きかえられた,といってよいであろう。なおインターナショナル・マネジメントという用語なりそうした研究領域(国際経営論)が広まり盛んになったのは,第2次大戦後のアメリカにおいてである。
執筆者:佐々木 尚人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報