ヘキスト-ワッカー法(読み)ヘキストワッカーホウ

化学辞典 第2版 「ヘキスト-ワッカー法」の解説

ヘキスト-ワッカー法
ヘキストワッカーホウ
Höchst-Wacker process

ドイツのFarwerke HöchstとWacker Chemieの両社が1959年に開発した方法で,単にワッカー法ともよばれる.エテンの部分酸化によりアセトアルデヒドを,またプロペンの部分酸化によりアセトンを合成するプロセス塩化銅(Ⅱ)を加えた塩化パラジウム(Ⅱ)の希塩酸溶液を触媒に用い,これにエテンを通じると式(1)によりアセトアルデヒドが生成する.還元されたPdは塩化銅(Ⅱ)で再酸化される(式(2)).アセトアルデヒドを分離した廃触媒液に空気を吹き込むと式(3)により触媒が再生される.

 C2H4 + PdCl2 + H2O →

CH3CHO + Pd + 2HCl (1) 

 Pd + 2CuCl2 → PdCl2 + 2CuCl(2) 

式(1)の反応の中間体として,エテン(OH)クロロパラジウムπ錯体が生成して(OH)配位子の分子内移動によりσ錯体へ転位した後,分解することにより,アセトアルデヒドができると考えられている.

この二段法に対して,触媒液にエテンと純酸素を通じ,反応と再生を同時に連続的に行わせる一段法がある.本法の出現により,アセチレンの水和によるアセトアルデヒドの製造,およびイソプロピルアルコール脱水素によるアセトンの製造は,わが国では化学工業としては消滅した.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘキスト-ワッカー法」の意味・わかりやすい解説

ヘキスト‐ワッカー法
へきすとわっかーほう
Höchst-Wacker process

エチレン塩化パラジウム触媒を用いて直接酸化し、アセトアルデヒドを得る方法。単にワッカー法とよばれることも多い。1959~1960年にドイツのヘキスト社およびワッカー社で開発され、世界的に広く採用されるに至った。プロセスは、エチレンと空気または酸素を触媒液中で100~110℃で反応させ、反応系で還元されたパラジウムは共存する塩化銅(Ⅱ)によって塩化パラジウムに戻し、生じた塩化銅(Ⅰ)を酸化して塩化銅(Ⅱ)に戻す仕組みである。同様の触媒系でプロピレンを酸化して一段でアセトンを得る方法、およびリン酸トリエチルを触媒とする酢酸熱分解によって得られるケテンを酢酸に吸収させ、無水酢酸を得る方法がいずれもワッカー法とよばれる。

[松田治和]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のヘキスト-ワッカー法の言及

【エチレン】より

…(4)アセトアルデヒドの製造 エチレンを塩化パラジウムを触媒として酸素酸化してアセトアルデヒドが生産される。このプロセスはヘキスト・ワッカー法と呼ばれる。アセトアルデヒドは化学反応性に富み,酢酸,無水酢酸,過酢酸,酢酸エチル,アルドール,クロトンアルデヒド,ペンタエリトリット,パラアルデヒド,クロラールなどが合成される。…

※「ヘキスト-ワッカー法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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