銅と塩素の化合物。1価および2価の化合物が知られている。
(1)塩化銅(Ⅰ)(塩化第一銅) 硫酸銅(Ⅱ)水溶液に塩化ナトリウムを加え、二酸化硫黄(いおう)を通じて沈殿させる。無色の結晶。空気中では酸化されやすく、緑色となる。水、エタノール(エチルアルコール)に難溶。塩酸中では一酸化炭素を吸収してCuCl・CO・H2Oをつくる。濃塩酸、濃アンモニア水には溶ける。殺虫剤、化学試薬などとして用いられる。有毒。
(2)塩化銅(Ⅱ)(塩化第二銅) 無水和物と二水和物CuCl2・2H2Oが普通である。無水和物は銅粉を塩素中で熱するか、二水和物を塩化水素気流中で加熱脱水して得られる。無水和物は褐黄色結晶。熱すると993℃で分解して塩素と塩化銅(Ⅰ)となる。吸湿性が著しく、水によく溶ける。水溶液は濃いと褐色、薄いと緑色。水溶液からは二、三、四水和物などの結晶が得られる。炭酸銅(Ⅱ)を塩酸に溶かした溶液からも二、三、四水和物が得られる。二水和物は緑色の結晶。密度2.39。湿った空気中では潮解する。エタノール、アセトン、ピリジンなどにも溶ける。熱すると110℃で水を失うが、同時に分解する。アニリン染料の酸化剤、家畜の伝染病に対する消毒剤などに用いられる。
[中原勝儼]
塩化銅(Ⅱ)
CuCl2
式量 134.4
融点 433℃
沸点 (分解)
比重 3.386(25℃)
結晶系 単斜
溶解度 70.78g/100mL(水0℃)
塩化銅(Ⅰ)
CuCl
式量 99.0
融点 430℃
沸点 1490℃
比重 4.14(測定温度25℃)
結晶系 立方
溶解度 0.110g/L(水25℃)
塩化銅(Ⅰ)と塩化銅(Ⅱ)とがある。
化学式CuCl。白色固体,融点422℃,沸点1366℃。塩化銅(Ⅱ)の水溶液に還元剤(二酸化硫黄,金属銅,ヒドロキシルアミン等)を作用させると沈殿する。結晶構造はセン亜鉛鉱型で,銅と塩素のイオンが互いに四面体型にとり囲んでいる。気相では環状三量体Cu3Cl3および四量体Cu4Cl4を生成する。二量体の存在が推定されたこともあるが,明確な証拠はない。水にはほとんど溶けず,塩酸,アンモニア水にはそれぞれ[CuCl2]⁻,[Cu(NH3)2]⁺の錯イオンを生成して溶ける。塩酸溶液は一酸化炭素,アセチレンを吸収する。アセチレンとは[CuCl(C2H2)]を生成するが,これはアセチレンをビニルアセチレン,塩化ビニル,アクリロニトリルに変化させる触媒として作用する。塩化銅(I)はまたアミン類,シアン化アルキル等の有機溶媒にも溶ける。酸化されやすいが,酸素のない,乾燥した状態では長期間安定に保存できる。有毒。用途としては,銅フタロシアニンブルー,農薬の原料,塩素化触媒などがある。
化学式CuCl2。褐色固体,融点633℃。比重3.054。結晶構造は塩化カドミウム型に似ているが,Cuに配位している6個のClのうち,同一平面上にある4個のCu-Cl原子間距離が2.30Åであるのに対して,それに垂直方向にある2個のCu-Cl原子間距離が2.90Åと長くなっている点が異なる。水,アルコール類によく溶ける。溶解度44g/100g飽和溶液(25℃),50g/100mlエチルアルコール(20℃)。アセトンは塩化銅(Ⅰ)に還元する。濃厚水溶液は褐色だが,うすめると緑から淡青色となる。触媒および媒染剤に用いられる。
2水塩CuCl2・2H2Oは,塩化銅(Ⅱ)の水溶液を濃縮して得られる青緑色の結晶である。これはエチルアルコール,アセトン,酢酸エチル等によく溶ける。110℃に加熱すると結晶水を失い無水物となる。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
【Ⅰ】塩化銅(Ⅰ):CuCl(99.00).塩化銅(Ⅱ)塩酸水溶液に金属銅を加え,加熱すると得られる.白色の粉末.せん亜鉛鉱型構造.融点422 ℃,沸点1366 ℃.密度4.14 g cm-3.水に難溶.濃アンモニア水,濃塩酸にそれぞれ錯イオン [Cu(NH3)2]+,[CuCl2]- を生じて溶ける.塩化銅(Ⅰ)の塩酸水溶液は一酸化炭素ガスをよく吸収するので,その定量に用いられる.農薬原料,塩素化触媒として用いられる.有毒.[CAS 7758-89-6]【Ⅱ】塩化銅(Ⅱ):CuCl2(134.45).無水物は銅を塩素中で加熱すると得られる.黄褐色の吸湿性の結晶.融点498 ℃.993 ℃ で分解し塩化銅(Ⅰ)となる.水,エタノール,メタノールに易溶.二水和物は水酸化銅(Ⅱ)または炭酸銅(Ⅱ)と塩酸の反応生成物を濃縮すると析出する.青緑色の結晶.密度2.39 g cm-3.媒染剤,銅の精錬,銅触媒の製造,プリント基板のエッチング液などに用いられる.[CAS 7447-39-4:CuCl2][CAS 10125-13-0:CuCl2・2H2O]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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