化合物を加熱して,より安定ないくつかの化合物へと分解すること。クラッキング,分解蒸留ともいわれる。これは一般的に熱分解反応と呼ばれるが,とくに石油類の熱分解は単一化合物の熱分解反応ではなく,高分子混合物に用いて有用な分解生成物を得る工業的に重要な技術であり,触媒を用いて行われる接触分解と対比される。石油の熱分解はその目的によっていろいろな技術があるが,元来は,石油の重質留分を分解して需要の多いガソリンを増産する目的で,20世紀の初めにおもにアメリカで開発され,普及した。すなわち,原油を常圧蒸留して得られる残油を500℃前後の温度に加熱すると,熱分解ガソリンが得られる。ただし,このガソリンは臭気が強く,不安定で,またオクタン価もあまり高くない。このため,1930-40年代に,より優れたガソリン生産技術である接触分解法が開発され,普及したため,熱分解ガソリン生産のための熱分解法はすたれてしまった。
しかし,現在でもビスブレーキング法,コーキング法などの石油熱分解技術は工業的に重要なプロセスとして実施されている。ビスブレーキングvisbreaking法は,石油の重質留分,たとえば原油の減圧蒸留の残油を原料とし,比較的ゆるやかな温度条件(たとえば420~450℃)で熱分解し,ガス,ナフサ,分解油,分解残油などを生産するプロセスである。その主目的は,粘度や流動点の低い,良質な重油留分を生産することにあり,ビスコーシティ・ブレーキングviscosity breakingの略称として名づけられた。コーキングcoaking法は,同じく石油の重質留分を原料とするが,ビスブレーキング法よりもきびしい温度条件(たとえば500℃)で熱分解を行い,ガス,ナフサ,分解油などとともにコークスを生産する。ナフサや分解油は,さらに精製し,あるいは接触分解装置にかけて,ガソリン,灯油,軽油などの製品となる。またコークスは,燃料として用いられるほか,灰分が少ないので炭素材として電極,人造黒鉛などが製造される。コーキング法の装置形式はディレードコーキングとフルードコーキングに大別される。前者は,加熱された原料油をコークスドラム中で分解させ,分解反応が進んでコークスがたまると原料油の供給を止め,コークスをとり出す。後者のフルードコーキング法は,コークスの微粒子を熱媒体として流動層型反応装置を用いて原料油を熱分解する。以上のような石油の熱分解技術は,現在は石油化学の領域に応用されており,オレフィンを生産するためのナフサ分解技術として広く普及している。
炭化水素の熱分解反応は,遊離基連鎖機構によって進行する。すなわち,炭化水素の炭素-炭素間の化学結合が高温下で解裂し,それによって生じた遊離基(不対電子をもち,反応性が高い)が,他の炭化水素から水素原子を引き抜き,これによって生じた第2の遊離基が分解し,オレフィンと第3の遊離基を生ずる。このように,つぎつぎと生ずる遊離基が分解反応の中間体として働き,分解が進む。
執筆者:冨永 博夫
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加熱によって分子が分解すること.光分解,放射線分解,電気分解などに対する用語として用いられる.多くの場合,熱分解では遊離基が生じ,それがほかの分子と反応する.熱反応の開始には容器の壁などが触媒となっていることが多い.ほとんどの燃焼反応がこれに属し,燃焼による発熱が別の分子の熱分解を助長する.その極端な場合が爆発反応である.また,ナフサの熱分解や重合開始剤の比較的低温での熱分解など,工業的に重要な反応はほとんど熱分解反応である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…石炭を原料として燃料ガスあるいは化学工業用の合成ガス(一酸化炭素と水素を主成分とする混合ガス)あるいは水素を生産することができる。石炭をガス化するためには,(1)熱分解(乾留),(2)部分酸化,(3)水素化分解などの原理を用いるが,そのいずれを採用するかは,目的とするガスの種類による。石炭ガス化技術はすでに工業的な実績をもつものも多いが,1970年ころから,その技術開発が再開された。…
※「熱分解」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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