パラジウム(読み)ぱらじうむ(英語表記)palladium

翻訳|palladium

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パラジウム」の意味・わかりやすい解説

パラジウム
ぱらじうむ
palladium

周期表第10族に属し、白金族元素の一つ。1803年イギリスのウォラストンは、粗白金の王水溶液から塩化白金酸アンモニウムを沈殿させたあとの母液を処理し、新しい金属元素を単離することに成功した。そして、前年の1802年におけるドイツの天文学者・医者のオルバースによる小惑星パラスPallasの発見を記念して、パラジウムと命名した。ロシアのウラル地方や南米コロンビアなどに産する白金鉱の中に他の白金族元素とともに遊離の状態で含まれるほか、しばしば金鉱、銀鉱、ニッケル鉱にも含まれる。

[鳥居泰男]

製法

原料となる陽極泥や白金鉱を王水で溶解し、白金を不溶性の沈殿として除去したあとの母液を、アンモニアおよび塩酸で処理すると、パラジウムが[PdCl2(NH3)2]となって沈殿する。これを焼けば海綿状の金属パラジウムが得られる。

[鳥居泰男]

性質

銀白色の金属で、白金と比べ展性と硬さはやや大きいが、延性はやや劣っている。化学的性質の点で銀に似ており、他の白金族元素よりいくぶん反応性が高い。塩酸のような、いわゆる非酸化性の酸(陰イオンに酸化力のない酸)には侵されないが、希硝酸には徐々に、濃硝酸、熱濃硫酸には速やかに侵される。塩酸であっても酸素あるいは塩素が共存すれば溶解する。王水にもクロロ錯体となって溶ける。多くの気体、とくに水素を吸蔵したり透過したりする性質がある。常温で350から850倍の水素を吸収する。水素を吸収したパラジウムは外観は金属状であるが、体積は増加してもろくなり、電気伝導度も低下する。吸蔵された水素は活性で、常温でも酸素やハロゲンと反応するほか、多くの還元反応が促進される。パラジウム海綿、パラジウム黒など粉状のものは、とくにこのような性質が著しい。

[鳥居泰男]

用途

水素反応などに使われる触媒としての用途がもっとも重要である。白金より安価なうえ軽いので各種の合金として、電気接点、歯科材料、装飾品などに使用される。

[鳥居泰男]



パラジウム(データノート)
ぱらじうむでーたのーと

パラジウム
 元素記号  Pd
 原子番号  46
 原子量   106.42
 融点    1550℃
 沸点    3100℃
 比重    12.02(測定温度20℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 1.5(第48位)
          (Si106個当りの原子数)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パラジウム」の意味・わかりやすい解説

パラジウム
palladium

元素記号 Pd ,原子番号 46,原子量 106.42。周期表 10族,ニッケル族元素の1つ。 1803年イギリスの化学者 W.ウォラストンが白金鉱中にロジウムとともに発見,当時新しく見出された小惑星パラスにちなんでパラジウムと命名した。地殻中の平均存在量,海水の平均パラジウム含有量とも定かではない。白金鉱,金鉱,銀鉱中に産する。単体は銀白色の金属で,融点 1555℃,比重 12.03,硬さ 4.8。高温ではかなり揮発性。多くの気体,特に水素をよく吸蔵し,また透過させる。暗赤色に熱すると酸化パラジウムに変る。硝酸,濃硫酸に可溶。金,銀,銅合金として歯科用材料,触媒 (パラジウム黒,パラジウム海綿) ,陶器の黒色顔料などとして用いられる。

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