パラジウム

デジタル大辞泉 「パラジウム」の意味・読み・例文・類語

パラジウム(palladium)

白金族元素の一。単体は銀白色の金属。王水に溶け、水素を吸着する性質が強い。合金材料・触媒・歯科材料などに使用。名は同じころ発見された小惑星パラス(Pallas)にちなむ。元素記号Pd 原子番号46。原子量106.4。

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精選版 日本国語大辞典 「パラジウム」の意味・読み・例文・類語

パラジウム

  1. 〘 名詞 〙 ( [ラテン語] palladium ) 白金属元素の一つ。元素記号 Pd 原子番号四六。原子量一〇六・四二。銀白色の金属。王水・濃硝酸・濃硫酸に溶けるが、硬度・展性は白金より大きい。触媒に用いられるほか金との合金が白金の代用として利用される。〔舎密開宗(1837‐47)〕

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化学辞典 第2版 「パラジウム」の解説

パラジウム
パラジウム
palladium

Pd.原子番号46の元素.電子配置[Kr]4d10の周期表10族貴金属または白金族元素.原子量106.42(1).質量数102(1.02(1)%),104(11.14(8)%),105(22.33(8)%),106(27.33(3)%),108(26.46(9)%),110(11.72(9)%)の6種の安定同位体と,質量数91~124の放射性同位体が知られている.1802年イギリスのW.H. Wollastonが王水溶液から白金を(NH4)2Pt Cl6として沈殿分離したあとの溶液中に発見し,同じ年に発見された小惑星パラスにちなんで命名した.パラスはギリシア神話知恵の女神Pallas Athene.宇田川榕菴は天保8年(1837年)に出版した「舎密開宗」で,巴爾刺冑母(パルラヂウム)としている.
地殻中の存在度0.001 ppm であるが,白金族元素のなかでは白金より多い.鉱物としては,安パラジウム鉱Pd3Sb,パオロボ鉱Pd2Sn,ズビャジンツェフ鉱Pd3Pb,ブラグ鉱(Pt,Pd,Ni)S,硫白金鉱(Pt,Pd)Sなど,白金鉱床中に産出する.白金族元素の可掘埋蔵量71000 t 中,63000 t が南アフリカ,ついでロシア6200 t,アメリカ・カナダあわせて1200 t の順である.白金族中のPdの割合は南アフリカが25~45%(鉱脈による)で,ロシアのウラル鉱床が71% であるから南アフリカが最大のPd資源国である.2007年の全供給量230 t 中,ロシア,南アフリカが約40% ずつを占めている.精製白金鉱,またはニッケル,銅電解精製過程の陽極泥を王水,Cl2-HCl溶液などに溶解後,沈殿,再結晶,溶媒抽出,蒸留によりPd塩を分離精製後,熱分解で金属を得る.展延性に富む可鍛性の銀白色の金属.立方最密構造.密度12.02 g cm-3.白金族中もっとも軽い.融点は白金族中もっとも低く1552 ℃,沸点3140 ℃.硬さ4.8.第一イオン化エネルギー8.34 eV.標準電極電位 Pd2+/Pd 0.915 V.王水に易溶,硝酸,熱濃硫酸に可溶.体積で900倍近くの水素を水素化物として吸収する.これを利用して水素を精製することができる.通常の酸化数2~4.主として二価で化合物をつくり,PdO(黒),PdS(黒褐),PdX2(X = F(褐),Cl(暗赤),Br(赤褐),I(黒)),Pd(NO3)2(黄褐),PdSO4(赤褐)などがある.塩化物,硝酸塩,硫酸塩は水に可溶,酸化物,硫化物,臭化物,ヨウ化物,シアン化物は水に不溶.Pd化合物,Pd化合物は不安定である.白金と同じく錯体を形成しやすく,酸化数が0と1の錯体も存在する.Cl,Br,I,CN,SCNと [PdX4]2-,NH3と [PdX4]2+,エチレンジアミンenと [Pd(en)2]2+ など,平面四配位構造の Pd錯体が多く知られている.
純パラジウムとして使用されることはなく,種々の合金,触媒材料に利用される([別用語参照]パラジウム触媒).最大の用途は自動車排気ガス浄化,三元触媒用で,白金,ロジウムとともに使用される.排気ガス規制強化とともに1台当たりの白金族使用量が増加し,2007年現在,小型車1台当たり約5 g とされる.Ptより安価なため,可能なかぎりPdへの置き換えが進められている.歯科用に金銀との合金が使用される.耐腐食性から,電気接点など,金との合金はホワイトゴールドとよばれ装飾品に使われる.わが国の需要は,2005年では三元触媒用20 t,歯科用16 t,電気部品用8 t,装飾品用5 t など.わが国は2005年には全量約70 t のうちそれぞれ約20 t をロシア,南アフリカ,アメリカから輸入している.[CAS 7440-05-3]

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改訂新版 世界大百科事典 「パラジウム」の意味・わかりやすい解説

パラジウム
palladium

周期表第Ⅷ族第5周期(軽白金族)に属する金属元素。1802年,W.H.ウォラストンは可鍛性のある白金をつくる目的で,粗製の白金を王水に溶かして過剰の酸を蒸発させ,シアン化水銀(Ⅰ)溶液を加えて得た黄色沈殿を灼熱した際に白い金属を発見した。同年発見された小惑星パラスPallasにちなんでパラジウムと命名した。彼は公表せず,匿名で新金属の販売広告という手段をとったため,白金アマルガムであるなど種々の疑惑を投げかけられた。これに対してやはり匿名でこの新金属合成法を公募し,それに答えながら04年彼はさらにロジウムを発見し,純粋な白金を得ることに成功して,一連の研究に終止符を打った。05年2月,初めて新金属はパラジウムで,彼自身の発見であることを公表した。

 パラジウムはおもに白金鉱中に含まれており,遊離の状態で産することはまれである。

銀白色の展延性に富む金属。結晶構造は面心立方格子。モース硬度4.8。多くの気体とくに水素をよく吸収し,また水素をよく透過する。この性質は水素の精製に利用されている。水素の吸収量は室温でその体積の350~850倍に達する。吸収した水素は活性化されるので,パラジウムは還元触媒として適する。暗赤熱(約350℃)で酸素と化合して酸化パラジウム(Ⅱ)PdOになるが,875℃で解離する。これ以上の温度では酸素を吸収するため重量増加が起こり,ついで金属自身の蒸発により減量する。フッ素,塩素,硫黄,セレン,リン,ヒ素,ケイ素などと加熱すると反応する。炭素は融解したパラジウムに溶け,冷却するとグラファイトとして析出する。ほとんどすべての金属と合金をつくる。酸に対する抵抗力は白金族金属中最も小さく,酸化性の酸に溶ける。希硝酸によって徐々に侵され,王水にはきわめてよく溶ける。濃塩酸には空気があると溶け,濃硫酸とは煮沸によって溶ける。過酸化ナトリウムと加熱すると酸化パラジウム(Ⅱ)になる。錯体をつくりやすい。

白金鉱を王水に溶かし,塩化アンモニウムを加えて白金を(NH42[PtCl6]として沈殿させ,母液にさらに塩化アンモニウムと硝酸を加えて加熱すると,パラジウムが酸化されて(NH42[PdCl6]の結晶を生ずる。この結晶をろ過し,精製する。(NH42[PdCl6]の粗結晶にアンモニア水を過剰に加え,加熱しながら還元し[Pd(NH342⁺にして溶解し,つぎに塩酸で処理し[PdCl2(NH32]として沈殿させ,この操作をくりかえし,最後に水素気流中で焼成すると,高純度のパラジウムが得られる。

パラジウムは白金より安価で軽いので,種々の合金の形で電気接点,軸受,歯科材料,装飾用貴金属などに用いられる。日本では装飾用白金の増量材ともされる。微粉パラジウムは白金同様,パラジウム石綿,パラジウム海綿,パラジウム黒,パラジウムコロイドなどの形で触媒として用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「パラジウム」の意味・わかりやすい解説

パラジウム
ぱらじうむ
palladium

周期表第10族に属し、白金族元素の一つ。1803年イギリスのウォラストンは、粗白金の王水溶液から塩化白金酸アンモニウムを沈殿させたあとの母液を処理し、新しい金属元素を単離することに成功した。そして、前年の1802年におけるドイツの天文学者・医者のオルバースによる小惑星パラスPallasの発見を記念して、パラジウムと命名した。ロシアのウラル地方や南米コロンビアなどに産する白金鉱の中に他の白金族元素とともに遊離の状態で含まれるほか、しばしば金鉱、銀鉱、ニッケル鉱にも含まれる。

[鳥居泰男]

製法

原料となる陽極泥や白金鉱を王水で溶解し、白金を不溶性の沈殿として除去したあとの母液を、アンモニアおよび塩酸で処理すると、パラジウムが[PdCl2(NH3)2]となって沈殿する。これを焼けば海綿状の金属パラジウムが得られる。

[鳥居泰男]

性質

銀白色の金属で、白金と比べ展性と硬さはやや大きいが、延性はやや劣っている。化学的性質の点で銀に似ており、他の白金族元素よりいくぶん反応性が高い。塩酸のような、いわゆる非酸化性の酸(陰イオンに酸化力のない酸)には侵されないが、希硝酸には徐々に、濃硝酸、熱濃硫酸には速やかに侵される。塩酸であっても酸素あるいは塩素が共存すれば溶解する。王水にもクロロ錯体となって溶ける。多くの気体、とくに水素を吸蔵したり透過したりする性質がある。常温で350から850倍の水素を吸収する。水素を吸収したパラジウムは外観は金属状であるが、体積は増加してもろくなり、電気伝導度も低下する。吸蔵された水素は活性で、常温でも酸素やハロゲンと反応するほか、多くの還元反応が促進される。パラジウム海綿、パラジウム黒など粉状のものは、とくにこのような性質が著しい。

[鳥居泰男]

用途

水素反応などに使われる触媒としての用途がもっとも重要である。白金より安価なうえ軽いので各種の合金として、電気接点、歯科材料、装飾品などに使用される。

[鳥居泰男]



パラジウム(データノート)
ぱらじうむでーたのーと

パラジウム
 元素記号  Pd
 原子番号  46
 原子量   106.42
 融点    1550℃
 沸点    3100℃
 比重    12.02(測定温度20℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 1.5(第48位)
          (Si106個当りの原子数)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パラジウム」の意味・わかりやすい解説

パラジウム
palladium

元素記号 Pd ,原子番号 46,原子量 106.42。周期表 10族,ニッケル族元素の1つ。 1803年イギリスの化学者 W.ウォラストンが白金鉱中にロジウムとともに発見,当時新しく見出された小惑星パラスにちなんでパラジウムと命名した。地殻中の平均存在量,海水の平均パラジウム含有量とも定かではない。白金鉱,金鉱,銀鉱中に産する。単体は銀白色の金属で,融点 1555℃,比重 12.03,硬さ 4.8。高温ではかなり揮発性。多くの気体,特に水素をよく吸蔵し,また透過させる。暗赤色に熱すると酸化パラジウムに変る。硝酸,濃硫酸に可溶。金,銀,銅合金として歯科用材料,触媒 (パラジウム黒,パラジウム海綿) ,陶器の黒色顔料などとして用いられる。

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百科事典マイペディア 「パラジウム」の意味・わかりやすい解説

パラジウム

元素記号はPd。原子番号46,原子量106.42。融点1552℃,沸点2964℃。白金族元素の一つ。1803年ウォラストンが発見。銀白色の金属。延性,展性に富み,硬度4.8。銀によく似,硝酸,濃硫酸に溶け,空気があれば濃塩酸にも可溶。水素をよく吸蔵し(粉末の場合約900倍容の水素を吸蔵),吸蔵された水素は活性化されるため,還元触媒(パラジウム黒,パラジウム海綿など)として多用。白金より軽く安価なため各種の合金とするほか,装飾用などにも利用。白金,金,銀の鉱石中に合金として含まれる。
→関連項目クロスカップリング

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