日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベヒスタン」の意味・わかりやすい解説
ベヒスタン
べひすたん
Behistan
イランのケルマーンシャー東方約30キロメートルにある村。ビストゥンBīstūnともビヒストゥンBihistūnともいう。古代のバグダードとラゲスを結ぶ街道上にあり、近くにベヒスタンの碑文が刻まれた岩山がある。ベヒスタンという名はアラブの地誌家ヤークートの記録したバヒストゥーンに基づくもので、1837年碑文を解読したイギリスのH・ローリンソン以来ヨーロッパで使われている。近世ペルシア語の呼称ビーソトゥーンBīsotūnはバヒストゥーンの縮約形で「巨大な岩柱のある」とか「柱のない」と俗解されているが、古代ペルシア語のバガスターナ「神祭の場」、ギリシア語写音バギスタノスに由来すると考えられる。岩山の絶壁には古代ペルシア語、エラム語、バビロニア語によるダリウス1世の戦勝碑文がある。頂上には先史時代の洞穴があり、麓(ふもと)には泉があるため、この大岩塊が神祭の場とされたらしい。祭神はアフラ・マズダーあるいは戦神ミトラ(ミスラ)であったと考えられる。12世紀の詩人ニザーミーの『ホスローとシーリーン』の舞台にもなった。
[井本英一]