イラン西部,ケルマンシャーの東32kmにある村。その名は北側にそびえる山の古名バガスターナ(〈神の座〉の意)に由来し,ベヒスタンBehistan,ビヒストゥンBihistūnとも呼ばれる。有名なダレイオス1世の碑文は約70mの高所の切り立った岩壁に刻まれているが,そのふもとには旧石器時代の洞窟遺跡,メディア期に想定される祭祀遺跡と城砦跡,セレウコス朝時代のヘラクレス像,パルティアのミトリダテス2世とゴタルゼス2世の浮彫がある。また,付近の平野部にはササン朝からサファビー朝にかけての諸遺跡がのこされている。
ビストゥン碑文は,ダレイオス1世の即位の正当性と,治世初期の大反乱を鎮めて帝国の統一を再建した彼の功業を伝えている。アフラ・マズダ神に祈願するダレイオス,彼が倒した王位奪(さんだつ)者ガウマータと9人の反乱指導者の群像浮彫を中央にして,これを三方から囲んで,古代ペルシア語の正文(5欄414行),エラム語(8欄593行),バビロニア語(1欄112行)の訳文が,それぞれの楔形文字を用いて記されている。接近しがたい碑文の調査は,1835年からローリンソンの決死の努力によって進められ,楔形文字解読に不朽の貢献をした。なお,1948年シカゴ大学オリエント研究所のキャメロンG.G.Cameronが行ったラテックス印刻によって,いっそう正確な碑文の写しが得られている。
執筆者:佐藤 進
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