マクラン地方(読み)マクランちほう(その他表記)Makrān; Mokrān

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マクラン地方」の意味・わかりやすい解説

マクラン地方
マクランちほう
Makrān; Mokrān

イラン南東部からパキスタン南西部にかけて広がるオマーン湾およびアラビア海沿岸地域。イランのジャースク西部のラスアルクーからパキスタンのカラチ近郊のラスベラ地区までの約 1000kmにまたがる。パキスタン側のマクラン地方はイラン側と区別し,「ケチ・マクラン」Kech Makranと呼ばれることもある。イラン側はシースターン・バ・バルチスターン州およびホルムズガーン州に属する。
バルチスターン州に属するパキスタンのマクラン地方は,東を同州のフズダル地区とラスベラ地区に,西をイランに,南をアラビア海に,北をシアハン山脈にそれぞれ囲まれている。沿岸を除き,ほとんどが山岳地帯にあり,東西を並行して走る数脈の山地は標高約 2100mに達する。ダシュト川上中流部にあたるケチ川やボリダ川などの河川が狭い谷を刻んでいる。中心地はトゥルバットで,さらに内陸にはパンジグルの町がある。灌漑が発達し,オオムギコムギモロコシなどが栽培され,ヒツジも飼育されている。沿岸部では,320kmにわたる砂浜を横切るようにハンマーヘッド形の半島がいくつも突き出し,過去の火山活動の激しさを物語っている。主要な港はグワダルオルマーラパスニにあり,漁業が行なわれている。
ペルシア帝国アケメネス朝)やマケドニア王国における古代ゲドロシア Gedrosiaの地にあたり,前 325年にはアレクサンドロス3世(大王)のインド撤退の舞台となるなど,イランやインドの歴史のなかでマクラン地方は戦略的に重要な位置を占めてきた。マクランの語源は不明だが,「マーヒークーラーン」Māhī Khūrān(「魚を食べる人」の意)から転訛したともいわれている。マーヒークーラーンは,古代ギリシアの歴史家アリアノスの『インド記』Indicaでは,同じ意味の「イクテュオパゴイ」Ichthyophagoiとして言及されているほか,6世紀のインドの占星学者バラーハミヒラの『ブリハット・サンヒター』Bṛhat-saṃhitāでは,西インドに隣接する部族リストにおいて「マカラ」Makaraの名で登場する。住民はアラブ系が多く,アラブ人が 7世紀にシンド地方(→シンド〔州〕)を制圧する前から居住していた。このほか,ダルザディ族,メド族らが古くから住んでいる。また,黒人の多くはかつての奴隷の子孫である。

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