日本大百科全書(ニッポニカ) 「マストドンゾウ」の意味・わかりやすい解説
マストドンゾウ
ますとどんぞう
mastodon
[学] Mammut
絶滅したゾウの一つのグループ。このグループのゾウの臼歯(きゅうし)には、対になった円丘状の突起、すなわち咬頭(こうとう)が列をつくって並んでいるので、その形から女性の乳房が連想され、マストドンという名前がつけられた。つまり、マストスmastosは、ギリシア語で乳房、オドントスodontosは歯をさしていて、両者を組み合わせて名づけられた。この名前は、1812年にフランスの動物学者キュビエが命名してから、広く使われてきているが、それよりも前の1799年に、ドイツの生理学者のブルーメンバハが、マムートMammutという名称を使っていたので、先取権から正式な学名としてはマムートが使われている。マムートは、タタール語の「地中にすむもの」という意味のママントゥmammantuによるものである。
アメリカのマストドンゾウは、外科医のウォーレンJohn Collins Warren(1778―1856)によってニューヨーク州の北部で発掘され、1855年に公開された当時はその巨大さで人々を驚かせた。肩の高さが2.8メートルもあり、いまから2万1000年前のものとされる。
がっしりした体型で、上顎(じょうがく)には大きく湾曲した巨大な牙(きば)があり、軟部組織も残されていた。また、胃にあたる部分からは食べた食物がそのままの状態で発掘された。それらのことから、体は赤褐色の長い体毛で覆われ、木の葉を常食としていたことが知られた。このゾウの仲間は、いまから1万年から8000年前に絶滅した。
このようなマストドン、つまりマムート(短顎マストドン)の系統のゾウの起源は古くて、先祖は約2000万年前の地質時代の中新世にさかのぼり、絶滅した化石ゾウのゴンホテリウム類Gomphotherium(長顎マストドン)などと共存していたことが知られている。これらの古いゾウたちは、ゾウの繁栄期のもので、多種多様なゾウが中新世から鮮新世にかけてアフリカ大陸、ユーラシア大陸、南北アメリカ大陸に広く分布していた。日本列島でも、そのような古い地質時代には、ゴンホテリウムのほか、シノマストドンやジゴロフォドンのようなマストドンゾウの仲間たちもいたことが知られている。これらの長顎および短顎のマストドンゾウとその仲間は、現生のゾウを含むエレファスゾウとは別の系統のゾウたちであった。マストドンゾウの仲間にははるか後まで生き延びて新しいエレファスゾウと共存していたものもいたが、ほとんどの地域で更新世末期の2万年前には絶滅してしまっている。しかし南北アメリカ大陸では8000年前までにも生き延びていたことが知られている。
[亀井節夫]
『亀井節夫編著『日本の長鼻類化石』(1991・築地書館)』▽『イアン・レッドモンド著、リリーフ・システムズ訳『ビジュアル博物館42 象』(1994・同朋舎出版)』▽『エドウィン・H・コルバート、マイケル・モラレス、イーライ・C・ミンコフ著、田隅本生訳『脊椎動物の進化』原著第5版(2004・築地書館)』▽『亀井節夫著『象のきた道』(中公新書)』