脊椎動物(読み)せきついどうぶつ(英語表記)vertebrate

翻訳|vertebrate

精選版 日本国語大辞典 「脊椎動物」の意味・読み・例文・類語

せきつい‐どうぶつ【脊椎動物】

〘名〙 動物分類学上の一単位で、脊索動物門のうちの一亜門。脊椎動物門とすることもある。動物界で最も複雑化した体制と、分化した機能をもつ動物群。体の背側には、縦に並んだ椎骨からなる脊柱があり、中枢神経系、閉鎖血管系をもち、呼吸は肺またはえらで行なう。皮膚は表皮と真皮の二重構造になっている。雌雄異体。現生脊椎動物は、無顎類軟骨魚類硬骨魚類両生類爬虫類・鳥類・哺乳類に大別され、現生種で約四万五千種がいる。化石は古生代オルドビス紀以来出土している。〔斯魯斯氏講義動物学(1874)〕
[語誌]挙例の「斯魯斯氏講義動物学」の訳注に「称謂名義などは我先儒及ひ支那人の訳例を襲用し、今だ訳例のないものは原語を大書して訳名を分注す」とあり、同書の第一篇の題名に「脊椎動物 アニマリア、フヱルテブラータ」と記されている。当時は「有脊動物」が一般的で、「脊椎動物」は、漢語の「脊椎」と「動物」を複合させた新語である。

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デジタル大辞泉 「脊椎動物」の意味・読み・例文・類語

せきつい‐どうぶつ【脊椎動物】

脊索動物門に属する亜門の一つ。体は左右相称で、支持器官として脊椎をもつ動物。魚類両生類爬虫はちゅう鳥類哺乳類が含まれ、現在の動物の中では最も複雑化した体制と分化した機能とをもつ。→無脊椎動物
[類語]無顎類魚類両生類爬虫類鳥類哺乳類

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改訂新版 世界大百科事典 「脊椎動物」の意味・わかりやすい解説

脊椎動物 (せきついどうぶつ)
vertebrate

脊索動物門脊椎動物亜門Vertebrataに属する動物の総称。中枢神経が発達し外界の変化に対応しようとする方向に進化してきた複雑な体制をもつ動物の一群。海,淡水,陸のほとんどあらゆる環境に生息し,体の大型なものが多い。爬虫類時代(中生代)や哺乳類時代(新生代)の名で知られるように動物界でもっとも顕著な類を含み,重要な家畜,実験動物のほとんどがこの類に属する。現生種は約4万4000あり,無顎(むがく)綱(ヤツメウナギなど),軟骨魚綱(サメ,エイなど),硬骨魚綱(ニシン,コイ,スズキなど),両生綱(イモリ,カエルなど),爬虫綱(カメ,トカゲ,ヘビ,ワニなど),鳥綱,哺乳綱が含まれる。有頭類ともいい,ときに独立の門とされる。

少なくとも胚には脊索があり,その背側に中空の中枢神経系(神経管),腹側に腸管が位置し,前腸(咽頭)に鰓裂(さいれつ)があり,循環系が閉鎖血管系で毛細血管をもち,体腔があるなどの点は他の脊索動物である尾索亜門(ホヤなど)と頭索亜門(ナメクジウオ)に等しいが,中軸骨格の大部分は脊索と違って分節した脊柱よりなり,前端部に頭骨(頭蓋)がある。脊柱は脊索の周囲の筋節と筋節の間にできた硬骨または軟骨の椎骨(脊椎または脊椎骨)が鎖状に連なったもので,脊索と同じく体の支持器官であるが,それよりじょうぶで,活発な運動に適する。高等なものでは脊索は成長すると消失する。

 体は頭,胴,尾の3部に分かれ,頭には脳と鼻,目,耳,およびそれらを保護する頭骨があり,口が開く。胴には消化管,腎臓,心臓などがあり,無顎類以外は2対のひれまたはそれの変化した四肢をもち,後者では頭と前肢の間に頸ができる。脳は中枢神経系の前端が変わったもので鼻,目,耳につながり,そこでとらえた外界の情報に対応して,器官に命令を発するだけでなく,その情報を経験として蓄え,必要に応じてそれを利用する。目はカメラに似たレンズ眼である。他の脊索動物は微小な浮遊生物を鰓裂でろ過して食べるろ過食であるが,あごとひれを獲得した魚類では,より大きな動物を追跡して捕食できるようになり,四足類では消化器官がとくに発達して食性が多様化した。循環系には少なくとも3室からなる心臓ができて血流を速くし,ヘモグロビンをもつ赤血球の獲得とあいまって,大量の酸素を組織に運ぶことが可能になり,行動や脳の働きが活発になった。

体は左右相称でその表面はじょうぶな皮膚で覆われ,皮鱗(ひりん)(魚類),角鱗(爬虫類),羽毛,毛などを備えたものが多い。皮膚は,外胚葉からできる表皮と中胚葉からできる真皮よりなり,表皮には粘液腺皮脂腺,汗腺などの腺があり,真皮には触受容器,温点,冷点,痛点などの皮膚感覚器が分布する。骨格は頭骨,脊柱,四肢骨(無顎類を除き)などに分かれ,頭骨は脳と目,耳などの重要な感覚器官を保護する神経頭蓋と,餌の摂取と呼吸に役だつ内臓頭蓋(あごなど)よりなる。脊柱を構成する椎骨には背側に1対の突起が合一してできた神経弓があって神経管を囲み,腹側には血道突起(尾部では血道弓)があって太い血管を囲む。胴部には多くは肋骨が付着している。陸上脊椎動物の四肢骨は,前肢は肩帯,後肢は腰帯を介して脊柱と連結し,重い体を支えるとともに体を前へ推進するのに適している。四肢は対鰭(ついき)の変化したもので,対鰭は体側の数対の筋節から生じた。

 呼吸器系は鰓裂にできる鰓囊(さいのう)内面の鰓弁(さいべん),同じく鰓裂にできるえら,または前腸から出る肺である。消化器系は腸管で,口腔,食道,胃,小腸,大腸と続き,ふつう総排出腔に終わる。口腔には歯,舌,唾液腺が,胃には胃腺が,小腸には絨毛(じゆうもう)と漿液腺(しようえきせん)があり,その前部(十二指腸)には胆汁を出す肝臓,膵液(すいえき)を出す膵臓が細い管で開口する。排出器官は腎管から発達した前腎(成体では円口類と原始的な硬骨魚類),中腎(魚類と両生類),または後腎(爬虫類,鳥類,哺乳類)である。中枢神経系は脳と脊髄に分かれ,脳は大脳(端脳),間脳,中脳,小脳および橋,延髄からなる。脳と脊髄からは多数の対になった脊髄神経が出て,皮膚,筋肉,内部器官などの支配領域に達する。循環器系には腸管と肝臓を結ぶ特有の肝門脈系があり,腸で吸収した養分を肝臓に運ぶ。

脊椎動物の各綱は,その祖先の系統関係が親と子の関係に近く,子に当たる綱は親に当たる綱の主要な特徴を保ちながら,新しい特徴を付け加えていて,ほとんどのものが入れ子式の関係にある。

 最古の脊椎動物はあごのない無顎綱Agnathaのバーケニア目(欠甲類)Birkeniiformes(=Anaspida)で,オルドビス紀後期からデボン紀まで栄えた。残りのものはすべてあごと対鰭(または四肢)を獲得した顎口類Gnathostomataに属し,オルドビス紀中期に無顎類から分かれたと推定されている。この類で最古のものはシルル紀後期に現れ二畳紀まで栄えた板皮類(綱)Placodermiで,これから最初に分かれた(オルドビス紀後期)のが軟骨魚類Chondrichthyesと推定されているが,これの化石は,やはり板皮綱から分かれデボン紀前期に現れた硬骨魚類Osteichthyesよりも後のデボン紀中期にならないと姿を見せない。硬骨を獲得した硬骨魚綱の中の総鰭類(亜綱)Crossopterygiiから分かれ,四肢と肺を獲得した両生類Amphibiaはデボン紀から石炭紀への移行期,両生綱から分かれ羊膜を獲得した爬虫類Reptiliaは石炭紀後期,爬虫類の祖竜亜綱Archosauriaから分かれ羽毛を獲得した鳥類Avesはジュラ紀前期,同じく爬虫綱の単弓亜綱Synapsidaから分かれ毛と乳腺および3個の中耳小骨を獲得した哺乳類Mammaliaは三畳紀後期に現れている。また無顎綱,板皮綱,軟骨魚綱,および硬骨魚綱を合わせて魚類Pisces,残りのものを四足動物Tetrapodaの2上綱とすることがある。
脊索動物 →動物
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脊椎動物」の意味・わかりやすい解説

脊椎動物
せきついどうぶつ

動物分類上、一門を構成する動物群。脊椎動物とは背骨をもつ動物群で、背骨をもたない無脊椎動物に対する語であるが、分類階級は等しくなく、前者が下位である。脊椎動物に共通する形態上の四大特徴は、(1)脊索が終生または一時的に存在すること、(2)椎骨が発達すること、(3)咽頭(いんとう)があること、(4)管状の神経管が背側にあること、である。脊索は背側にある棒状構造で、ほとんどの脊椎動物で脊索は脊椎にとってかわられ、成体では退化している。しかし無顎(むがく)類のヤツメウナギやヌタウナギでは脊椎の発達が悪く、脊索が生涯を通じて存在する。咽頭は口腔(こうこう)と食道の間の膨大部で、終生えら呼吸をする魚類では左右の側壁に切れ目(鰓裂(さいれつ))が入り、えらを生じる。脊椎動物の際だった特徴は神経系の発達にある。脳は神経管前端部から生じる。管腔に沿った部分は脳幹となる。脳幹から背側に生じる灰白質は、感覚器官からの投射を受け、おもな三つの感覚である視覚、嗅覚(きゅうかく)、平衡感覚と聴覚に関連している。外界情報の受容器である感覚器官と情報分析器である脳の発達によって、環境によりよく適応できるようになり、脊椎動物は現在のように繁栄したと考えられる。

 原始的脊椎動物は備えておらず、高等になるにしたがって獲得した形態学的変化のうち特筆すべきものは、(1)あごの発達、(2)対鰭(ついき)または四肢の発達、(3)肺の発達、(4)羊膜と胎盤の発達、である。脊椎動物が水から離れて陸上にまで生活圏を拡大したのは、これらの発達に負うところが大きい。

 循環系は閉鎖血管系とリンパ管系からなる。心臓は、魚類が一心房一心室、両生類は二心房一心室、爬虫(はちゅう)類は二心房一心室または二心室、鳥類と哺乳(ほにゅう)類は二心房二心室である。成体の排出系は、両生類までが中腎(じん)、爬虫類以上のものは後腎が機能的となる。

 現生の脊椎動物は無顎類(円口類)、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の七綱で構成され、あごの発達する軟骨魚類以上を顎口類という。また、両生類以下を無羊膜類といい、爬虫類、鳥類、哺乳類を羊膜類とよんでいる。

 なお、分類上、脊椎動物を一門ではなく一亜門とし、尾索動物、頭索動物の両亜門とともに脊索動物門に含める説もある。

[川島誠一郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脊椎動物」の意味・わかりやすい解説

脊椎動物
せきついどうぶつ
Vertebrata; vertebrate

脊索動物門脊椎動物亜門に属する動物の総称で,体の中軸骨格として脊椎をもつ。発生途中で脊索を生じるが,胚後期に体節のある脊柱に置き換る。体は左右相称で,頭部,胴部,尾部の3部に分れる。頭部には脳,頭蓋,対をなすよく発達した感覚器をそなえている。中枢神経系は,神経孔をもつ中空の管状神経系で,消化管背側にある。血管系は閉鎖血管系。咽頭部に鰓が生じ,陸生のものはのちに肺が形成される。円口類魚類両生類爬虫類鳥類哺乳類から成る。

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百科事典マイペディア 「脊椎動物」の意味・わかりやすい解説

脊椎動物【せきついどうぶつ】

脊椎を持つことを最大の特徴とする動物界の一門。複雑な体制と分化した機能を有し,高度で多様な生活様式をもつ。脊椎を中軸骨格とし,少なくとも胚には脊索がある。体は左右相称,ふつう頭・胴・尾部の区別をもつ。ほとんど雌雄異体,有性生殖を営む。最古の脊椎動物の化石はオルドビス紀から出土する無顎類。原索動物に最も近く,脊索をもつ点を重視して,原索動物と脊椎動物を合わせ脊索動物とすることもある。円口類,軟骨魚類,硬骨魚類,両生類,爬虫(はちゅう)類,鳥類,哺乳(ほにゅう)類に分類される。

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世界大百科事典(旧版)内の脊椎動物の言及

【呼吸】より

…水生動物の呼吸器官であるえらは,体表の一部の表面近くに血管の分布がとくに密になっているところであるが,ガス交換の面積を増大するためにひだとなっているのが普通である。これに対して陸生動物の肺は空気呼吸に適した器官であって,脊椎動物では食道の一部のふくらみとして形成され,空気をその中に吸い入れることによってガス交換面の乾燥を防ぐことができる。えら呼吸でも肺呼吸でも,たいていの動物では呼吸器表面をたえず新鮮な水や空気にふれさせておくために,呼吸運動によって換水や換気が行われている。…

【神経系】より

…これをデールの原理Dale’s principleというが,近年,多数の伝達物質ないしその候補が報告されており,この法則の修正を求める説も現れはじめている。【水野 昇】
【神経系の系統発生】

[無脊椎動物の神経系]
 進化の初期の段階で出そろった無脊椎動物の神経細胞には,突起の少ない細胞と分泌性細胞が多い。無脊椎動物の神経系はいずれも外胚葉に由来するが,散在神経系と集中神経系の二つの様式がある。…

※「脊椎動物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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