改訂新版 世界大百科事典 「マルコフニコフ則」の意味・わかりやすい解説
マルコフニコフ則 (マルコフニコフそく)
Markovnikov's rule
プロピレンCH3CH=CH2のような非対称アルケンにハロゲン化水素,硫酸,水などHX型の求電子試薬が付加する際の,付加の方向に関する経験則。二つのアルケン炭素のうち,水素原子とより多く結合したほうの炭素にHが結合し,アルキル置換の多いほうの炭素にXが結合した付加物が主生成物となるという通則で,1869年にロシアの有機化学者マルコフニコフVladimir Vasil'evich Markovnikov(1838-1904)により見いだされた。
これら求電子付加反応ではカルボカチオンが中間体となり,その安定性の差によって配向性が決まるものと考えられる。つまり,電子供与基であるアルキル基によってより多く置換されたカルボカチオンほど安定であり,生成しやすい。
ただし,HXがHBrの場合,酸素または過酸化物が存在するとマルコフニコフ則と反対の方向に付加する。この異常付加はラジカル反応の機構を経ているためで,ラジカル中間体の安定性が配向性を支配している。
執筆者:小林 啓二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報