化学式HBr。刺激臭のある無色の気体で,液体では淡黄色を呈する。臭素と水素とを,白金アスベストあるいは白金シリカゲルなどを触媒として,375℃で直接反応させて製造する。実験室では,テトラヒドロナフタレン(テトラリン)と臭素とを反応させたり,赤リンと水との混合物に臭素を滴下してつくる。液体二酸化硫黄中で臭素と水とを反応させると,硫酸と臭化水素とが生ずる。また重金属臭化物を高温で水素を用いて還元すると高純度の臭化水素が得られる。融点-86.86℃,沸点-66.72℃。比重2.77(液体,-67℃),気体1lの重量3.64g(0℃)。臨界温度は89.8℃。H-Br結合距離は1.41Åで,約11%のイオン性をもつ共有結合。無極性溶媒には溶けにくいが,極性溶媒にはよく溶ける。とくに水によく溶けて強酸となり,水溶液を臭化水素酸と呼ぶ。低温では固体の水和物HBr・nH2O(n=1,2,3,4)を生成する。47.63%臭化水素水溶液は沸点124.3℃の共沸混合物である。分別蒸留法により精製できるが,乾燥剤としては酸化アルミニウムまたは臭化カルシウムなどが適当である。濃硫酸は不適当,五酸化二リンは微量の臭素および臭化ホスホリルを生成するため乾燥剤としては好ましくない。臭化水素中の臭素は赤リン,水銀を用いて除くことができる。エチルアルコール,エーテル,アセトンにも可溶。塩化水素に似ているが,はるかに酸化されやすい。加熱すると分解。酸素と反応して水と臭素を生ずる。オゾンとは爆発的に反応。フッ素とは激しく反応してフッ化臭素BrFを,多くの金属と反応して臭化物を生成する。
執筆者:大瀧 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
臭素と水素との化合物。触媒の存在下で水素と臭素を反応させてつくられる。臭化物にリン酸を作用させるか、赤リンと水の混合物に臭素を作用させても得られる。無色の気体。刺激臭があり、空気中の湿気により白煙を生じる。性質は塩化水素によく似ているが、酸化されやすい点が違っている。水によく溶け、常温で臭化水素酸の約16モル溶液を生じる。水溶液(臭化水素酸)は強酸として働く。47.63%臭化水素酸は沸点124.3℃の共沸混合物である。低温では水和物HBr・nH2O(n=1, 2, 3, 4)の結晶をつくる。エタノール(エチルアルコール)、エーテル、アセトンなど酸素を含む有機溶媒によく溶ける。医薬品の原料、臭化物の合成原料として用いられる。毒性があり、眼(め)や気管支の粘膜を侵し、呼吸困難になる。
[守永健一・中原勝儼]
臭化水素
HBr
式量 80.9
融点 -86.86℃
沸点 -66.72℃
密度 気体 3.640g/dm3
(比重) 液体 2.77(測定温度-67℃)
溶解度 221g/100g(水0℃)
臨界温度 89.8℃
臨界圧 84気圧
HBr(80.91).臭化カリウムに硫酸を作用させるか,白金あるいは活性炭を触媒として水素と臭素を直接作用させると得られる.刺激臭のある無色の気体.融点-86.9 ℃,沸点-66.8 ℃.水に易溶.水溶液は臭化水素酸という.エーテル,エステル,エタノールなどに発熱して溶ける.化学的には塩化水素よりも酸化されやすく,加熱すると分解する.酸素と熱すると水と臭素になり,オゾンとは爆発的に反応する.フッ素とはげしく反応してフッ化物を,塩素と反応して塩化物を生じる.また,多くの金属と反応して臭化物を生じる.臭化物製造,アルキル化触媒,半導体製造用ガスなどに用いられる.粘膜をおかす.有毒.[CAS 10035-10-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…化学反応を組み立てる要素となるこれらの反応過程を素反応といい,素反応によって反応中間体あるいは反応生成物が生じる。たとえば比較的低温でのヨウ化水素の生成は,ただ一つの素反応H2+I2―→2HIからなるが,臭化水素の生成は次の一連の素反応からなる。 Br2⇄2Br Br+H2―→HBr+H H+Br2―→HBr+Br H+HBr―→H2+Br化学反応がどのような素反応から成り立っているかを示すことによって,その反応機構が明らかにされるが,そのために反応速度の解析,反応中間体の検出同定などの方法が用いられる。…
…フッ化水素HF,塩化水素HCl,臭化水素HBr,ヨウ化水素HIおよびアスタチン化水素HAtの総称。ハロゲン原子と水素原子との結合はフッ化水素を除いてはイオン性よりもむしろ共有結合性で,結合のイオン性の程度はつぎのようである。…
※「臭化水素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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