マルチパス(読み)まるちぱす(英語表記)multipath

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルチパス」の意味・わかりやすい解説

マルチパス
まるちぱす
multipath

空間に放射された電波が、二つ以上の伝搬経路を経て多重に受信される現象。多重波伝搬ともいう。電波塔から放射された直接波以外は反射波で、時間遅れ(位相遅れ)を伴う。反射波が生じる原因はさまざまで、代表的なものに電離層などの空間構造によるもの、山岳などの地形構造によるもの、建築物などの人工構造によるものがある。都市部では高層ビルが多く、これによる都市型のマルチパスが問題になる。

 マルチパスによる障害は、アナログテレビの場合、画像が二重、三重になるエコー現象が生じて受信の品質を低下させるが、受信そのものが不可能になることはない。これに対し、地上デジタルテレビの場合、マルチパスが生じると、多重電波間の干渉によってデジタル信号の復号(デジタル化された符号アナログ信号に戻す作業)が阻害され、受信不能になる可能性がある。放送方式が日本のISDB-TやヨーロッパのDVB-Tの場合は、一つのテレビチャンネルを多数のキャリア搬送波)で送信するマルチキャリア方式を採用しているため、マルチパス障害を避けることができ、安定した受信が確保されている。これに対し、アメリカのATSC方式の場合は一つのチャンネルを一つのキャリアで送るシングルキャリア方式を採用していることから、マルチパス障害に弱い。このため、アメリカでは都市部のテレビは電波によらず、ケーブルテレビ主体となっている。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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