改訂新版 世界大百科事典 「ミイロタテハ」の意味・わかりやすい解説
ミイロタテハ (三色蛺)
タテハチョウ科ミイロタテハ属Agriasの昆虫の総称。中央~南アメリカ特産の一群の中型~大型のタテハチョウで,代表種A.sardanapalusの雄が通常,紅色,紺色,黒褐色に美しく色分けされているのでこのように名づけられた。翅の裏面は黒みがちで,後翅には眼状紋がある。メキシコ以南,とくにアマゾンの熱帯雨林に広く分布し,いずれの種も太くがんじょうな体とじょうぶな翅をもち,雄壮に飛ぶ。翅の開張は小型の雄で6cm,大型の雌で8cmに及ぶ。採集はもっぱら腐熟果や獣糞を用いたトラップ(わな)による。種類数は10に満たず,学者によってはその半分くらいしか認めないが,亜種がきわめて変化に富み,400も命名されている。メキシコからブラジル南部まで分布するアミドンミイロタテハA.amydonでは,黒褐色部を除いた翅表面の彩色が,産地によって紅と紺,紺と緑,橙と紺,黄と紺のように種々の組合せで,互いに別種と見えるほどである。
ミイロタテハはこのように変異に富み,美しく,かつ採集が困難であるため,前世紀以来収集家の間ではモルフォチョウ類とともに南アメリカの華麗チョウとして珍重されている。生活史は不明なものが多いが,二,三の食樹は知られている。ミイロタテハにきわめて近縁でやや大型のものにプレポナPrepona属の約30種があり,南アメリカの華麗チョウとして同様に愛好されている。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報