生物個体が出生してから死亡するまでの過程。生物は発育段階ごとに、環境的・形態的・生理的変化と密接に関連して変化する生息場所、すみ方や活動型などの行動、栄養の種類や摂食法、繁殖の仕方、外敵などの特有の生活様式をもつが、その全系列をさしている。生活史は個別に各個体が送るものであるが、1個の個体についての全生活史を追跡することは一般に困難であり、通常、同じ個体群に属する複数の個体について比較総合して個体群特有の生活史を描き、さらにいくつかの個体群の生活史を比較総合して種特有の生活史を描き出す。さまざまな自然環境下での個体群ごとの生活史の違いや異種間での生活史の違いを比較し、とりわけ繁殖や生存に関する量的性質(増殖力、繁殖回数、寿命など)を比較することによって、生活史の進化を探る試みも行われている。
生活史を、次世代を生ずる生殖細胞を中心として環状に簡略化して表現したものを生活環という。多くの植物では、核相が複相(2n相)で胞子を形成する胞子体の生活である無性世代と、核相が単相(n相)で配偶子を形成する配偶体の生活である有性世代とが、交互に繰り返される世代交代が認められ、核相交代と一致している。多くの動物では、植物の無性世代に相当する複相世代(2n世代)が生活環の主体であり、しかも有性的である。植物の害虫であるアブラムシ類では季節的に異なる型の生活史をもち、単性胎生世代(春から夏)と両性世代(秋)とが交代する。このような様相は周年生活環といい、一般の生活環とは区別している。なお、生活史や生活環を単に生物の一生やその長さという意味で一般的に用いられることも多い。
[遊磨正秀]
生物が生まれてから死ぬまでの生活の移り変り。ここでいう生活には,食性,行動習性,社会生活,繁殖様式などが含まれる。正確には受精卵が発生を開始してからであるが,ふつうには発芽または孵化(ふか)または出産から生理的寿命で死ぬまでを問題にする。主として問題にされるのは,成体になるまでの生活の変化と繁殖様式であり,寿命の長い生物では成体になってからの生活の季節的変化や繁殖の間隔なども問題にされる。逆に世代間隔の短い生物では年になん世代生ずるかという問題もある。寿命の長さそのものも含めて,生物界に見られる生活史はひじょうに多様であって,古くから人々の興味をひいてきた。生活史の記載は博物学の主要な内容でさえあった。この多様な生活史は生物の種ごとにほぼ一定しており,博物学ではもっぱらその多様な姿の記載が行われてきたが,種ごとにほぼ一定しているということは,生活史が形態上の特徴と同じく種の属性として進化してきたものであることを意味している。1950年代にこのことが指摘されてから,生活史が種ごとに異なっているのはどうしてかということが新しい課題として取り上げられるようになり,自然淘汰説に基づいての研究が近年ではひじょうに盛んである。なお生活環のことを生活史と呼ぶこともある。
執筆者:浦本 昌紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…(a)鞭毛菌亜門(鞭毛菌類) 栄養体は単細胞,あるいは菌糸状,運動性の胞子,あるいは配偶子をもつ。生活史のある時期に鞭毛をもって運動する遊走子が遊走子囊中に形成され,泳ぎ出す。この鞭毛には尾型と羽型があり,その着く位置,本数などが分類基準となる。…
…植物では胞子が発芽して配偶体世代をつくり,そこで有性生殖がみられて核相が複相の接合子(受精卵)がつくられ,それが発芽,生長して胞子体となり,胞子囊内で減数分裂を行って胞子を生産するというのが一般的な生活環で,それが部分的に修正されたり,退化して欠落したり,あるいは別のものがつけ加わったりして多様な生活環の様式をつくっている。もともと,その循環を生活史と呼んでいたが,生物が生まれてから死ぬまでに経験する内的外的のできごとをひっくるめて生活史といういい方が生態学などで用いられるようになったため,最近では生活環という用語を用いるのが普通になった。ただし,生活史という用語を生活環の意味で使うことも珍しくはなく,どういう意図で使用されているか注意して読み取る必要がある。…
※「生活史」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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