ミロン塩基(読み)ミロンえんき(英語表記)Millon's base

改訂新版 世界大百科事典 「ミロン塩基」の意味・わかりやすい解説

ミロン塩基 (ミロンえんき)
Millon's base

化学式Hg2N(OH)・2H2O。黄色酸化水銀を二酸化炭素を含まない濃アンモニア水と暗所で14日間反応させると鮮黄色沈殿として得られる。比重4.08。立方晶系。a=9.58Å。結晶中では石英に似た構造をもち,石英のSiをNで,またOをHgでおきかえた,次に示すような構造をしている。

Nのまわりに4個の水銀原子が正四面体に配位しており,またN-Hg-Nは直線である。OH⁻やH2Oはこの網目構造の中に入りこんでいる。水その他の溶媒に溶けない。光に当たると分解する。不安定で乳鉢中で磨砕すると,パチパチ音をたてて分解し,アンモニアを発生する。可逆的な脱水が可能で,アンモニア雰囲気中で乾燥,加熱により褐色のHg2N(OH)・H2OおよびHg2N(OH)・1/2H2Oが得られる。これらはさらに不安定で,前者は光に鋭敏であり,また後者は爆発性である。

 ミロン塩基は種々の酸と反応するとOH⁻の代りに他の陰イオンがおきかわった塩,Hg2NBr(六方晶系),Hg2NI(六方晶系),Hg2NNO3(立方晶系)を得ることができる。これらはいずれも,Hg-Nでつくる基本骨格構造がミロン塩基と同一であり,ミロン塩基は,OH⁻が他の陰イオンと陰イオン交換を行うゼオライトに似た挙動を示す。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「ミロン塩基」の解説

ミロン塩基
ミロンエンキ
Millon's base

Hg2N(OH)(432.19).ニトリド二水銀(Ⅱ)水酸化物(nitridodimercury(Ⅱ) hydroxide)ともいう.アンモニア水と,新しくつくった黄色の酸化水銀(Ⅱ)HgOとを長時間反応させると二水和物を生成する.Hg2N(OH)・2H2Oは立方晶系で黄色の結晶.N原子のまわりに4個のHg原子が正四面体型に結合しており,さらにその頂点のHg原子を隣接するHg4Nと共有した三次元連続構造で,クリストバル石型巨大分子([別用語参照]クリストバライト)を形成している.OH,H2Oはそのすきまに配列している.Hg-N約2.04~2.09 Å.エタノールエーテルに不溶.乾燥すると一水和物(褐色)になり,湿気でもとの二水和物に戻る.一水和物には感光性がある.酸と反応して各種の塩Hg2NX(X = F,Cl,Br,I,CN,NO3,NO2,(1/2)CO3,(1/2)SO4など.いずれも水酸化物と同様な構造をもつ)をつくる.Hg2NIはネスラー試薬の反応性生物で,HgI2とKIの混合飽和NaOH水溶液にアンモニアを作用させると生成する.[CAS 12529-66-7]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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