化学式HgO。2価水銀の化合物のみが知られており,1価水銀の酸化物の存在は明確ではない。水銀(Ⅰ)塩水溶液に水酸化アルカリを加えると沈殿する黒色物質は,黒降汞(こくごうこう)と呼ばれ,Hg2Oであると考えられていたが,HgとHgOの混合物であることがわかっている。
古くから赤色および黄色の化合物が知られていたが,これは粒子の大きさの違いによるもので,ともに同じ斜方晶系の結晶である。赤色化合物のほうが粒子が細かい。結晶中では平面鎖状構造をなし,原子間距離Hg-O=2.03Å。
水銀原子は同一鎖内の2個の酸素原子と,隣の鎖の4個の酸素原子に囲まれていて,隣の鎖の酸素原子との原子間距離は2.8~2.9Åである。比重=11.14。約450℃に加熱すると酸素を発生して分解し,金属水銀に変わる。この反応は可逆的である。光によっても分解する。水に対する溶解度5.2×10⁻3g/100g(25℃)。弱い塩基で酸に溶ける。また二酸化硫黄SO2を三酸化硫黄SO3に,リンをリン酸に酸化するなど,酸化作用もある。
水銀を酸素中で360℃に加熱すると生ずるが,硝酸水銀(Ⅱ)の熱分解,水銀の陽極酸化,水銀(Ⅱ)塩水溶液にアルカリまたは炭酸塩を加えてつくることもできる。
テトラヨード水銀(Ⅱ)酸カリウムK2[HgI4]のうすい溶液をアルカリと反応させるとだいだい色の変態が得られる。これは六方晶系である。構造は上述の斜方晶系の化合物と似ているが,鎖が同一平面上になく,らせん状にねじれている。しかし原子間距離や結合角はほとんど違わない。殺菌剤,防腐剤,結膜炎の治療に用いられる。黄色のものは黄降汞,赤色のものは赤降汞と呼ばれている。有毒。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
酸素と水銀の化合物。1価および2価の化合物が知られている。
(1)酸化水銀(Ⅰ) 古くは黒降汞(こくごうこう)ともいわれ、また黒色酸化水銀ともいう。硝酸水銀(Ⅰ)の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて得られる。一価水銀の化合物ではなくて、酸化水銀(Ⅱ)と水銀の一対一混合物とされている。化学式Hg2O、式量417.1。黒色ないし暗褐色の粉末。水に難溶であるが、硝酸に溶ける。
(2)酸化水銀(Ⅱ) 天然にはモントロイダイトmontroyditeとして存在する。赤色(赤色酸化水銀)と黄色(黄色酸化水銀)の2種があることが錬金術時代から知られ、古くは赤降汞(せきごうこう)、黄降汞(おうごうこう)ともよばれた。この色の違いは、生成するときの粒子の大きさの違いによるものであり、赤色型を細粉にすると黄色となる。冷暗所で硝酸水銀(Ⅱ)水溶液をアルカリ水溶液に加えると得られる。酸に溶けるが、エタノール(エチルアルコール)、アルカリ、アンモニア水には溶けない。水溶液は微アルカリ性を示す。皮膚病などの軟膏(なんこう)として使われる。毒性が強い。
[中原勝儼]
酸化水銀(Ⅱ)
HgO
式量 216.6
融点 ―
沸点 ―
比重 11.14
結晶系 斜方
溶解度 5.2×10-3g/100g(水25℃)
分解温度 500℃
【Ⅰ】酸化水銀(Ⅰ):Hg2O(417.18).硝酸水銀(Ⅰ)の水溶液に水酸化ナトリウムを加えると,黒色の粉末として得られる.この粉末は酸化水銀(Ⅱ)と水銀の1:1混合物とされている.密度9.8 g cm-3.100 ℃ で分解する.水に不溶,硝酸および熱酢酸に可溶,希酸およびアルカリ水溶液に不溶.有毒.[CAS 15829-53-5]【Ⅱ】酸化水銀(Ⅱ):HgO(216.59).赤色(赤ゴウコウ)と黄色(黄ゴウコウ)のものが知られている.赤色,黄色ともに化学的には同一物である.密度11.14 g cm-3.赤色のものは10~20 μm,黄色のものは2 μm 以下の粒径で,赤色のものをすりつぶすと黄色になる.赤色のものは硝酸水銀(Ⅰ)または硝酸水銀(Ⅱ)を加熱するか,水銀と酸素を300~350 ℃ で直接反応させると得られる.塗料,顔料,ペイント,陶磁器,殺菌剤,分析試薬に用いられる.黄色のものは,水銀(Ⅱ)塩水溶液に水酸化アルカリを加えると得られる.医薬品(皮膚病用軟膏),分析試薬に用いられる.赤色体,黄色体のいずれも水に難溶,酸に可溶,エタノール,アセトン,エーテル,アルカリ水溶液に不溶.有毒.[CAS 21908-53-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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