むぐら

日本大百科全書(ニッポニカ) 「むぐら」の意味・わかりやすい解説

むぐら
むぐら / 葎

カナムグラをさすとも、ヤエムグラなどを含めたつる性の雑草総称ともいう。荒廃した、また、みすぼらしい家や庭の景物として、蓬(よもぎ)や浅茅(あさぢ)とともに、文学作品に早くからみられ、すでに『万葉集』から「八重(やへ)葎」「葎生(ふ)」などと歌語化して用いられている。平安時代以後は、歌語としては「八重葎」に固定して、『拾遺(しゅうい)集』秋「八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり」(恵慶(えぎょう)法師)などと詠まれた。

 一方、『後(ご)拾遺集』春上「桜花盛りになれば故里(ふるさと)の葎の門(かど)もさされざりけり」(藤原定頼(さだより))など、「葎の門」「葎の宿」というような歌語が生じるが、この前提として「葎の門に住む女」、荒廃した屋敷に美女がひっそりと隠れ住む、というようなロマン的な場面が物語によって形成され、読者に歓迎されて類型化した。『伊勢(いせ)物語』三段の「思ひあらば葎の宿に寝もしなむ引敷物(ひじきもの)には袖(そで)をしつつも」、『大和(やまと)物語』173段の良岑宗貞(よしみねのむねさだ)の話、『うつほ物語』「俊蔭(としかげ)」の若小君(わかこぎみ)(藤原兼雅(かねまさ))と俊蔭女(むすめ)との出会いの場面などがその例であり、『源氏物語』「帚木(ははきぎ)」の雨夜の品定めで語られる「さて世にありと人に知られず、寂しくあばれたらむ葎の門に、思ひのほかにらうたげならむ人の閉ぢられたらむこそ、限りなく珍しくはおぼえめ」などはその典型といえよう。季題は夏。

[小町谷照彦]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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