日本大百科全書(ニッポニカ) 「メリテリウム」の意味・わかりやすい解説
メリテリウム
めりてりうむ
moeritherium
[学] Moeritherium
ゾウの仲間である長鼻類の1グループ(属)で、ゾウの先祖の一つとされている。始祖象ともいう。北アフリカのエジプト、アルジェリア、マリ、リビアの各地で、始新世後期から漸新世初期(約4000万~3000万年前)の地層から化石が発見されている。20世紀のはじめ、最初に発見されたカイロ南西約60キロメートルのファイユーム盆地にある古い湖のメリ湖の名前から、メリ(Moeri)の獣(therium)という名前がつけられた。いまのゾウとは異なって、肩の高さは70センチメートルほどで、大形のブタか、小形のバクぐらいの大きさで、頭はやや長く、胴長の哺乳(ほにゅう)動物であった。鼻は短かったが、切歯は大きく牙(きば)状であり、全体の体の形は現生のコビトカバによく似ていて、水陸両用の生活をしていたと考えられている。
現在のゾウたちの先祖にあたるものとされたこともあるが、むしろゾウの先祖を含む古い哺乳類のグループの一つとして扱われている。体の構造からみて、系統的には絶滅哺乳類のデスモスチルスのような束柱(そくちゅう)類、ジュゴンなどの海牛(かいぎゅう)類、ハイラックスなどの岩狸(いわだぬき)類に系統的に近いともされていて、それらに共通な先祖のなかにゾウの起源が求められている。
メリテリウムのようなゾウの先祖の仲間には、北アフリカから出土する化石として知られているものが多い。一番古いものとしては、およそ6000万年前の暁新世(ぎょうしんせい)後期の地層からみつかったフォスファテリウムPhosphatheriumというものがあり、これは長鼻類の最古の先祖であるとともに、有蹄(ゆうてい)類全体の先祖であるともされている。このほか、ヌミドテリウムNumidotherium、バリテリウムBarytherium、デイノテリウムDeinotheriumなどがあるが、それらは断片的な化石でしか知られていないので、長鼻類のなかでの位置づけや相互関係については明らかでない。なお、パキスタンやインドで化石として知られているアントラコブネAnthracobuneというグループにもそのような長鼻類の先祖の一つがあるとされている。
[亀井節夫]