デスモスチルス(読み)ですもすちるす(その他表記)desmostylid

デジタル大辞泉 「デスモスチルス」の意味・読み・例文・類語

デスモスチルス(〈ラテン〉Desmostylus)

第三紀中新世に北太平洋沿岸地域にいた海生の化石哺乳類体長約2.5メートル。大きな頭とがんじょうな四肢をもち、円柱を束ねたような形の臼歯きゅうし特徴草食性

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精選版 日本国語大辞典 「デスモスチルス」の意味・読み・例文・類語

デスモスチルス

  1. 〘 名詞 〙 ( [ラテン語] Desmostylus ) 新生代第三紀中新世から鮮新世に生存した水生の哺乳類。海牛類、長鼻類などに近縁と考えられるが、ふつう独立の束柱目とされる。体長二・五メートル、肩高約一メートル、外形はカバに似ている。上顎は門歯を欠き、犬歯は牙状、臼歯が円柱の束からなっていることが特徴とされている。アメリカ・アジア両大陸の北太平洋沿岸に分布。日本では岐阜県土岐市で発掘された化石が有名。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「デスモスチルス」の意味・わかりやすい解説

デスモスチルス
ですもすちるす
desmostylid
[学] Desmostylus

化石でのみ知られる絶滅した哺乳(ほにゅう)動物の一グループ(目)、束柱類(そくちゅうるい)ともいう。1888年に最初に発見された歯の化石が、小さな円柱を束(たば)ねたような形をしていたので、ギリシア語の束ねるのデスモスdesmosと、柱のスチルstylとをあわせてデスモスチルスという学名がつけられた。

 化石は、北太平洋の両岸から知られていて、北米の西岸ではオレゴンからカリフォルニア、アジアの東岸ではサハリンから日本列島の北海道本州の各地から発見されている。それらは第三紀の中新世前・中期(約2000万~1500万年前ごろ)の地層から出土している。

 サハリンと日本では全身の骨格が発掘されていて、カバのような胴体にワニのように横に張り出した太い四脚がつき、体長は3メートル、体重は200~300キログラムと推定されている。また、どのように歩行していたかという運動技能の復元もなされている。骨格復元は、長尾復元(1937)、亀井復元(1970)、犬塚復元(1984)などがある。動物分類では、束柱目というグループに含められ、ゾウの長鼻(ちょうび)目、ジュゴンなどの海牛(かいぎゅう)目、イワダヌキハイラックス)の岩狸(いわだぬき)目や化石でのみ知られている重脚目のものに近縁とされている。

 デスモスチルスがいたころの日本列島は、現在とは違って、アジア大陸に連なっていた。デスモスチルスの化石骨といっしょにみつかる植物や貝の化石から、デスモスチルスは温暖な気候のもと、海岸地帯のマングローブ林で生活していたと考えられている。デスモスチルス類は、体の構造から陸上での動きは鈍く、水中での生活が主であったとされ、食物としては海藻(かいそう)説、植物説またはゴカイや貝類説がある。しかし歯の形態からは、いろいろな食物をすり潰(つぶ)して食べていたことが推定されている。

 デスモスチルスの仲間に、パレオパラドキシアPalaeoparadoxiaというものがあり、全身骨格は岐阜県瑞浪(みずなみ)市、岡山県津山市、アメリカのカリフォルニアで発掘されていて、それらの復元骨格がそれぞれの博物館で展示されている。デスモスチルスの先祖には、より古い漸新世後期(約2700万~2400万年前)の地層からのコルンワリウスCornwallius、ベヘモトプスBehemotopusが知られていて、さらに古い2900万年前のものとしては、北海道足寄(あしょろ)町で発見されたアショローアAshoroaが知られる。デスモスチルス類の系統進化の解明は犬塚則久によってされていて、それらの化石標本は、北海道の足寄動物化石博物館でまとまって展示されている。

[亀井節夫]

『犬塚則久著『デスモスチルスの復元』(1984・海鳴社)』『井尻正二・犬塚則久著『絶滅した日本の巨獣』(1989・築地書館)』『木村方一著『太古の北海道――化石博物館の楽しみ』改定版(2007・北海道新聞社)』『「特集・束柱類の進化」(『足寄動物化石博物館紀要』第1号所収・2000・足寄動物化石博物館)』


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改訂新版 世界大百科事典 「デスモスチルス」の意味・わかりやすい解説

デスモスチルス
Desmostylus

絶滅した哺乳類の1属で,化石として日本列島(本州,北海道),サハリン,カムチャツカ,カリフォルニアなど,北太平洋の沿岸地帯でのみ発見されている。円柱を束ねたような特異な形態の臼歯によって特徴づけられ,1888年にマーシュO.C.Marshがギリシア語の束(たば)という意味のデスモスdesmosと柱を意味するスチロスstylosとを合わせて学名とした。98年に日本の岐阜県瑞浪(みずなみ)市明世(あけよ)で頭骨の化石が発見され,1902年に吉原重康,岩崎重三によって記載,報告された。長いこと,このものの分類上の位置づけは研究者により異なり,海牛類,長鼻類,多丘歯類,有袋類,単孔類,有蹄類とさまざまであった。33年にサハリン(旧南樺太気屯)で全骨格が発見され(北大標本),これを研究した長尾巧によって,それまで予測されていたような海牛(ジュゴン)の仲間とはちがい,四肢骨のよく発達したウシ大の体長3mの動物であることがわかり,世界中の研究者を驚かせた。今日では,近縁のパレオパラドキシアなどとともに束柱目(デスモスチルス目)という独立のグループに含められ,海牛類や長鼻類とは系統的に近いものとされている。骨格の復元についても多様な考えがあり,カバやバクに似たものから,アシカのようなものまでさまざまな復元がある。77年に北海道の歌登(うたのぼり)町で発掘された全身骨格にもとづいて,82年に犬塚則久は復元を行ったが,それによると,頭骨は塊状で扁平,首は短く,胸に扁平で対に並ぶ大型の胸骨があり,前腕の尺骨と橈骨が平行で,後肢の脛骨が強くねじれているのが特徴である。四肢はからだの横に張り出し,陸上では腹を地面にすりつけて歩き,温暖な海岸地帯で生活し水中の遊泳に適していたとされる。臼歯のエナメル質は厚く硬く,ラッコのように貝を割って中身を食べたという考えもあるが,エナメル質の微細構造や歯の形態から,海藻や海岸の草の根などを食べていたものとされる。化石として発見されるのは中新世中期ごろの地層に限られ,生存期間は1500万~1600万年前を中心としている。その先祖型も不明で,子孫にあたるものもない特殊な哺乳類である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「デスモスチルス」の意味・わかりやすい解説

デスモスチルス
Desmostylus

哺乳類束柱目デスモスチルス科の代表的化石属。大きな頭と短いが頑丈な四肢をもつバクに似た親海性の動物。円柱を束ねたような歯を特徴とし,食性は草食と考えられる。四肢からみて,海岸近くで遊泳し,陸にも上がったとみられる。新第三紀中新世前期から鮮新世にかけて北太平洋沿岸地域に分布。アメリカ合衆国では Desmostylus hesperus が,日本では D. mirabilis など 3種のほか,近縁種の化石が知られている。(→束柱類

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百科事典マイペディア 「デスモスチルス」の意味・わかりやすい解説

デスモスチルス

第三紀中新世の化石哺乳(ほにゅう)類。体長約2m。頭骨は長く,左右各1本の切歯があり,鼻の位置は後退。胴は短く,四肢が非常に太い。短い鉛筆を束ねたような形の臼歯(きゅうし),4対の扁平な胸骨が独特。束柱目という独立のグループに含められる。海岸近くの浅海にすみ,海辺の下草や貝などを食べたらしく,かつてはジュゴンの仲間とされていたが,現在はバクなどに近いと考えられている。化石は北米から日本までの北太平洋沿岸のみに生息。近縁な種にパレオパラドキシアがおり,デスモスチルスとほぼ同時期に少し南の地域に生息していた。

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世界大百科事典(旧版)内のデスモスチルスの言及

【カイギュウ(海牛)】より

…陸上生活に適応した群は種々の哺乳類に進化し,四肢で歩く群となったと思われる。この中に長鼻目のゾウもおり,デスモスチルス群もいたと考えられる。デスモスチルスをカイギュウ目の1亜目と考える学者の根拠は,歯の形態がよく似ていることにある。…

※「デスモスチルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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