自由に動く長い鼻をもつ蹄行(ていこう)性の大型の草食性哺乳類で,哺乳綱真獣下綱長鼻目Proboscideaに属する。現生種はアフリカに2種,南アジアに1種しかいないが,地質時代にはアフリカ,ヨーロッパ,アジア,南北アメリカの熱帯から寒帯まで広く分布し,多くの種類があった。アフリカ起源の原始的な有蹄類(近蹄上目)でイワダヌキ目,カイギュウ目などに近縁であるが,鼻と上唇がいっしょに長くのび,手のように自由に動く〈鼻〉ができた。
頭は大きく首が短く,四肢は太く前・後足とも5指をそなえ,指骨の先端で体を支える蹄行性であるが,ひづめは不完全でひらづめに近い。手根骨と足根骨を構成する上列の各骨は,奇蹄類や偶蹄類では下列の2個の骨にまたがって乗り,地面から伝わる衝撃を緩和する働きをもつが,長鼻類ではイワダヌキ目同様,下列の1個の骨の上に乗る。多くは上の第2切歯がきばになり,つねに下の犬歯がない。胃は単純,盲腸が長い。精巣は腹腔内に位置し,子宮は双角性,胎盤は帯状。乳頭は1対で胸の前部に位置する。
次の6科がある。もっとも原始的なのはアフリカの始新世~漸新世のメリテリウム科(メリテリウムMoeritherium)で切歯が上に3対,下に2対,上あごに犬歯があり,バク大で四肢と鼻が短く,骨格はカイギュウ目に近い。アフリカ,ユーラシアの中新世~更新世から知られるデイノテリウム科(デイノテリウムDeinotherium)は切歯が下あごにだけ1対あり,下後方に向かう。犬歯はない。始新世~更新世に広く分布したゴンフォテリウム科(パレオマストドンPalaeomastodon,ゴンフォテリウムGomphotherium,プラチベロドンPlatybelodon,アメベロドンAmebelodonなど)は上下ともに1対のきばをもち,臼歯(きゆうし)は歯冠部が低く,咬面(こうめん)に乳頭状の突起がある。胴が長く四肢が短い。後の2属では下のきばがシャベル状に変形している。中新世~更新世に広く分布したマンムト科(マンムトまたはアメリカマストドンMammut,ジゴロフォドンZygolophodon)は前科に似てしばしば同科とされるが臼歯の乳頭状突起が横列を形成する。中新世に現れたゾウ科(ステゴドンStegodon,マンモスMammuthus,現生のゾウ)は下のきばを欠き,臼歯の歯冠部が高く,咬面に多数の横畝があり,草その他の硬い植物を食べるのに適する。
アフリカの始新世~漸新世のバリテリウム科(バリテリウムBarytherium)は下の切歯が大きく,臼歯がメリテリウムに似るが,化石が貧弱で詳しいことがわからない。長鼻類でないとの説もある。
→ゾウ
執筆者:今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱長鼻目に属する動物の総称。この目Proboscidaeの仲間は、陸生哺乳類でもっとも体が大きく、自由に動く長い鼻(鼻と上唇が一体となったもの)をもち、これで食物を口に運び、体に水をかける。頭は大きく、頸(くび)が短く、四肢は柱状で長く、指行性の足には5本の指とひづめ状の平づめがある。乳頭は前胸に1対。陰嚢(いんのう)がない。上の1対の門歯は終生伸び続け3メートルに達する。臼歯(きゅうし)は上下とも6対あり、1個ずつ現れる。上の手根骨が下のそれの上にのるところや胎盤(帯状)の構造は、ハイラックスや海牛類に似る。成長が遅く、13~14歳で成熟する。妊娠期間22か月、1産1子。寿命は60~80年。現生種はゾウ科に属し、アフリカと南アジアに各1種がある。
[今泉吉典]
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