改訂新版 世界大百科事典 「モンタニャール」の意味・わかりやすい解説
モンタニャール
Montagnard
モンタニャールとはフランス語で〈山地民〉の意。
(1)ベトナム,カンボジア,ラオスの旧フランス領インドシナ地域に住む山岳少数民族の総称。アウストロアジア語族のモン・クメール語族に属する言語を話すバナール族Bahnar,セダン族Sedang,ロベン族Loven等とともに,アウストロネシア(マレー・ポリネシア)語族に属する言語を使用するジャライ族Jarai,ラグライ族Raglai,ラデー族Rhadé等を含んでいる。彼らは古くから平地の支配民族(ベトナム人,クメール族,ラオ族等)と対立抗争を繰り返してきたため,支配民族によってモイ(野蛮人)とかカー(奴隷)とかいう総称的蔑称で呼ばれ,政策的配慮の埒外に置かれてきた。彼らは,その言語的・文化的な多様性にもかかわらず,山岳地帯で互いに隣接して生活し,経済的・文化的な接触を行い,共通の経験を積み上げてきている。平地で定着水稲栽培を行っている支配民族に対して,彼らは,(a)焼畑耕作または狩猟採集を行っている点,(b)自給自足的で高い集合性をもつ村落で生活している点,(c)アニミズム的信仰を強く残しているなどの共通点をもっている。以上のような点を基礎に,近年の歴史過程で,モンタニャールは単なる総称名辞にとどまらず,一つの実態を伴ったものになりつつある。従来もラデー族,ジャライ族,バナール族等の反政府的な動きがみられたが,最近のインドシナ戦争の過程で,彼らは〈被抑圧民族防衛統一戦線(FULRO)〉を結成し,平地民による山地入植反対,山地諸民族の言語・教育等の主権回復等,共通利害の追求に乗り出している。
(2)カナダ北西部からアラスカ中部のロッキー山系に住むインディアンのアサバスカ族Athabaskanのこと。内部的に,タナナ族Tanana,クチン族Kutchin,コユコン族Koyukon等多くの言語集団に分岐している。伝統的には,不安定で平等的なバンドを形成して,トナカイの狩猟やサケ・マス等の漁労に従事しながら移動生活を送っていた。シャマニズムがみられ,伝統的にはシャーマンが唯一の宗教的専門家だった。太平洋岸の西部グループの間では,死者供養に名を借りたポトラッチ(勲功祭宴)がみられる。16世紀以来,カナダ人,ロシア人を相手に毛皮の交易を行うことによって西欧文化と接触してきた。近年,定着村落をつくる傾向を強め,脱狩猟民化が進んでいる。それと並行して,彼らの西欧語の習得と,キリスト教化も進みつつある。
執筆者:小野沢 正喜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報