近年日本の漁労はその大部分が沖合いまたは遠洋の漁労であるが、古くから伝わる原始的な漁労はすべて沿岸または内水面の漁労である。本項ではその特色あるものをあげる。一つは鵜(う)を使っての漁労、いわゆる鵜飼(うかい)であり、もう一つは裸で水中に潜り、魚や貝、海藻類をとる海士(あま)・海女(あま)による漁労である。近年ゴム製のウェットスーツが多用され、長時間水中にいても身体が冷えないようになったが、すこし前までは、シャツ、襦袢(じゅばん)類をまとい、もっとさかのぼれば褌(ふんどし)、腰巻一つの裸で、何回か潜水すると陸上または船上にあがってたき火で暖をとらなければならなかった。獲物をあさるにも眼鏡もなく素眼に頼ったので、効率は悪かった。眼鏡も二つ眼鏡より一つ眼鏡へと進み、水圧に応じて眼鏡内側の空気を調整するくふうもなされるようになった。海女には、岸近い所で桶(おけ)や樽(たる)に頼って潜るものと、船に乗って沖に出て深く潜るものとがあり、後者が本海女として尊重されている。この場合、船上で船を操り、海女につながる綱を持ち、海女の合図に応じて綱を引き上げ、海女の浮上を助ける男子がいた。海士・海女ともに海藻や貝類をとるが、海士には魚類を銛(もり)、やすで突いてとるものもいる。
銛、やすで魚類をとるのに、水中へ潜らず、水中を歩いて、あるいは船上から水中の魚をねらってとるものもある。その際、水中のようすがよくうかがえるよう、干したアワビのわたなどを口に含んだのを吐き出したり、竹筒に入れた油を振りまいて水面を滑らかにすることも行われたが、のちには箱眼鏡が広く用いられるようになった。
柴(しば)などを束ねたものを水中に浮かべたものへ寄ってきた魚ごと引き上げてとる漁法や、笊(ざる)や簀子(すのこ)でつくった容器(笯(どう)、筌(うけ)など)を水中に置いて中へ入ってきた魚などをとる漁法も古いものである。石や柱や簀子で川の流れをある程度せき止め、その垣のあいた所に簀子を斜めに仕掛け、上り下りする魚をとる簗(やな)漁や、海辺、湖沼、ときに川の中に長い簀子を張り巡らし、その中に入った魚の退路を断ってこれをとらえる魞(えり)漁なども古くから行われた漁法である。
おもに自家消費の補いとしてあるいは単なる遊びとして行われた漁労では、ほとんど漁具を用いないものが案外に広く行われていた。一つはまったくの素手で岸辺の草むらや石陰に手をやって手に触れた魚をとらえたり、川の中の大石を玄能などでたたいて、その衝撃で一時失神状態の魚をとらえるものなどである。
[最上孝敬]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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