ポトラッチ(英語表記)potlatch

翻訳|potlatch

デジタル大辞泉 「ポトラッチ」の意味・読み・例文・類語

ポトラッチ(potlatch)

《元来は消費・贈与の意》北アメリカ太平洋岸のインディアン社会に広くみられる、威信と名誉をかけた贈答慣行。主催者は盛大な宴会を開き、客に蓄積してきた財物を惜しみなくふるまって自らの地位と財力を誇示し、客もその名誉にかけて他の機会にそれ以上のもてなしをする。

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精選版 日本国語大辞典 「ポトラッチ」の意味・読み・例文・類語

ポトラッチ

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] potlatch 消費するの意 ) 北アメリカ太平洋岸のハイダ、クワキウトゥルなどのアメリカインディアンの社会にみられる儀礼的な贈答競争。客を招き宴会を開いて財物を消費し、招かれた相手も名誉にかけて別の機会にそれ以上の消費をし、過度の消費によって名誉ある地位を得ようとする。
    1. [初出の実例]「都市はたえず、ぜいたく品をむだに消費してこわすという、ポトラッチ的な側面を持っているが」(出典:日本カネ意識(1984)〈野田正彰〉一)

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改訂新版 世界大百科事典 「ポトラッチ」の意味・わかりやすい解説

ポトラッチ
potlatch

北アメリカ北西海岸部に住むアメリカ・インディアンのトリンギット族ハイダ族クワキウトル族,チィムシャン族,ヌートカ族などの間で行われた競覇的な贈与交換を伴う饗宴。ポトラッチという名称は,ヌートカ語の〈物を与える〉という意味の〈パツシャトル〉という単語が,チヌーク・ジャーゴンと呼ばれる通商言語を経て,英語に入ったものである。

 北西海岸インディアンの人々は夏季の間,山地で分散した生活を送るが,冬季になると〈町〉と呼ばれる場所に集合し,その期間中,誕生,婚姻,葬礼,成年式,家屋トーテム・ポールの新築など,さまざまな儀礼的機会を利用して,大規模な饗宴を開いた。首長や社会的地位の高い者などが主催者側の中心となり,その親族や村民たちが協力し,多数の客を,ときにはかなり遠方からも招待した。主催者側は来客に気まえのよさを示さねばならず,多量の食物でもてなし,来客の地位に応じて,貴重な財物である毛皮や毛布,銅のプレートなどを贈与した。主催者側は多大な出費を負うが,大規模なポトラッチを行ったということによって,社会的地位や威信を得ることができる。首長の威信や親族の社会的地位はポトラッチを行った回数やその規模によって決まるのである。これに対し,招待された来客は返礼として饗宴を開き,受けた贈物以上のものを返礼しなければならない。この返礼ができない場合には,社会的地位や威信を失ってしまうのである。

 ポトラッチによる贈与交換は,対抗し合う個人や氏族,部族間での気まえのよさの示し合いであり,面子(めんつ)や名誉をかけた競争である。大規模なポトラッチを行い,莫大な量の食物や財物を贈与することによって,招待した来客を気まえのよさで圧倒し,それ以上の返礼をできないようにさせ,相手を打ち負かし辱めることが最終的な目的なのである。したがって全財産をかけてポトラッチを行うこともあり,また,贈物の贈与ではなく,相手の目の前でみずからの毛皮や毛布,油入りの樽,家屋などを焼却したり,貴重な銅のプレートなどをたたきこわしたり,ときにはみずからの奴隷を殺したりすることによって,気まえのよさを誇示することもあった。

 フランスの社会学者M.モースはポトラッチの本質を,贈与する義務,受け取る義務,返礼の義務,の三つの義務と規定した。社会的地位を保つためには,来客に対し贈物を贈与しなければならず,来客はその贈物を受け取り,返礼しなければならない。受取や返礼を拒否すれば,社会的地位や威信を失ってしまうのである。モースはさらに,贈与される財物が呪術的な力を持つとされていることに注目し,この力が返礼を強制する力であると論じた。モース以降,ポトラッチという言葉は,大量の財物の贈与や消費を伴う交換現象を指す一般概念として用いられることもある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポトラッチ」の意味・わかりやすい解説

ポトラッチ
potlatch

北太平洋沿岸のアメリカインディアンの儀礼で,公的な地位を誇示するために自分の富を分配する行為をいう。チヌーク族の用語で「贈答」を意味し,オレゴン州北部からアラスカ州南部にかけて,トリンギット,チムシアン,ハイダ,ベラ・クーラ,南・北クワキウトル,沿岸サリシュ,下チヌークの諸民族の間で行われる。それぞれ特徴があるが,一般に主催者の地位により大小さまざまの祝宴が開かれ,近隣の人々を招き,その階級に応じて贈物をする。このとき主催者とその親族は気前のよさを最大限に発揮してその地位を誇る。後継者の披露,結婚,葬礼などから,赤ん坊の発毛といった些細な理由でも行われ,ときには不名誉な行為の挽回のために行われることもある。招待された者は,なにかの機会により盛大な祝宴を開いて答礼する。答礼が十分でない場合には,相手の奴隷身分に落されることもある。南クワキウトル族のポトラッチは 1840~1925年頃最も盛大に行われ,何日も続く祝宴の間に何千枚もの毛布や仮面,カヌーなどに加えて,ヨーロッパから輸入したモーターボートやミシン,ほうろう引きの器,衣類,コムギ,砂糖などが配られた。しかしその後主として経済的理由によりほとんど行われなくなった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポトラッチ」の意味・わかりやすい解説

ポトラッチ
ぽとらっち
potlatch

クワキウトル、ハイダ、トリンギトなどのアメリカ大陸北西部インディアン諸族の間にみられる贈答慣行をさす。ポトラッチということばは、食物を供給するとか共食の場所とか贈与を意味する、同じ北西部インディアンのチヌークの言語であるチヌーク語に由来する。ポトラッチは、誕生、婚姻、葬式、位階の相続といった儀礼的機会に催され、主催者は盛大な祭宴の席で招待客に大量の財貨、毛布や銅板などの贈答物をばらまく。招待客は招待や贈答物の受け取りを拒むことができず、また後日、招待されたもの以上の規模の祭宴を催さねばならない。これに失敗すると彼の名誉は損なわれ、地位は下降する。このように、ポトラッチを行う動機は、自らの富を誇示し、それを惜しげなく与えることによって競争者を打ち負かし、自らの威信を高めることにある。ポトラッチの競覇的性格は、しばしば、競争相手の面前で大量の毛布やカヌーを燃やしたり、銅板を打ち砕いたりといった財の破壊行為すら導く。インディアン自身のことばにあるように、人々は敵と「財産によって戦っている」のである。

[濱本 満]

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百科事典マイペディア 「ポトラッチ」の意味・わかりやすい解説

ポトラッチ

北米,カナダのブリティッシュ・コロンビア州のインディアン,クワキウトル族等に見られた習俗。宴会を開いて供応し,銅の飾り板(実用価値はない)や毛布を贈物とした。そして自分のポトラッチの番になると前例を上回る贈物をするというふうに,浪費が社会組織の基盤となり,戦争の代用でもあった。近代的経済観念に反するこの特異な慣行は,M.モースの贈与論,G.バタイユの一般経済学の構想などに示唆を与えた。
→関連項目アメリカ・インディアン

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世界大百科事典(旧版)内のポトラッチの言及

【宴会】より

…古代ローマ人に親しまれたサトゥルヌスの祭には,自由な民と奴隷という身分上の差別が取り去られ,性の解放と暴飲の乱痴気騒ぎが行われた。北アメリカの北西部に住むトリンギット族,ハイダ族,チムシアン族は,祝祭の季節を迎えると,ポトラッチとよばれる儀礼的な贈与交換を行う。饗宴が開かれると,招待する者も招待される者も,自分たちの名誉や威信を保つために,財産の消費と分配を強いられる。…

【贈物】より

…つまり,原初的な社会における贈答システムは,まずもって食物や製品,さらに最も貴重な財のカテゴリーである女を含んだ全体的交換であると主張する。
[ポトラッチとクラ]
 このいわば連帯促進システムに対して,贈与のもつ他の側面として,送り手と受け手の間に競争や対立をまねく要素のあることも重要である。ポトラッチと呼ばれる北米インディアンの贈与交換に関する事例によれば,自己の威信を高めるために名誉や面子をかけて,財貨の惜しみない競争的贈与や浪費が行われる。…

【クワキウトル族】より

…各拡大家族の成員の間,同一村落内の家族の間,各村落の間にもそれぞれ序列が生まれることになる。 地位・称号の継承,名誉の回復などにはポトラッチを主催し,社会的承認を受ける必要があった。これは拡大家族成員の協力によって首長により主催される饗宴と贈答を伴う儀礼で,着席,贈答品の授受,供応の順序も社会的序列を反映する。…

【平和】より

…核戦争の危険を内在させている抑止システムが不安定なゆえんである(軍拡)。加えてこれは,史上最大のポトラッチpotlatchである(G.ブートゥール)。ポトラッチとは民族学では,自己の優越を明示したいときに相互に行う贈与儀式をいう。…

※「ポトラッチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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