日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤマノカミ」の意味・わかりやすい解説
ヤマノカミ
やまのかみ / 山之神
roughskin sculpin
[学] Trachidermus fasciatus
硬骨魚綱スズキ目カジカ科に属する淡水魚。有明(ありあけ)海の湾奥部に注ぐ川と諫早(いさはや)湾のほかに、朝鮮半島や中国大陸の黄海と東シナ海に流入する河川にも分布する。山の神は「醜い女」であるという俗説からこの魚の名がつけられた。体はハゼ型で、頭は縦扁(じゅうへん)し、後頭部と頬(ほお)部に隆起したひだがある。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)に4本の棘(とげ)がある。体は黄褐色で、5個の暗褐色横帯がある。産卵期には雌雄ともに鰓膜(さいまく)や臀(しり)びれが鮮やかな朱色になる。夏には中流域の砂礫(されき)底にすみ、夜間に積極的に甲殻類、魚類などを食べる。晩秋に成熟して川を下って海に入り、早春に河口域とその付近や干潟でカキなどの二枚貝の殻に卵を産み付ける。卵の直径は2.0~2.2ミリメートルで、沈性粘着卵である。雄が卵塊を保護する。仔魚(しぎょ)は河口付近で浮遊生活をし、体長2、3センチメートルで底につき、4~5月に川を上る。1年で体長10~12センチメートルになる。多くは生後1年で成熟し、産卵、放精後に死ぬ。日本では利用されていないが、中国大陸では古来からこの魚を松江鱸魚(しょうこうろぎょ)と称して珍重する。
[尼岡邦夫]