日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラホナビス」の意味・わかりやすい解説
ラホナビス
らほなびす
[学] Rahonavis ostromi
原始的鳥類の1属とみなされている。マダガスカル・マジュンガ盆地のマエバラノ層という約8000万年前の白亜紀後期の地層から発見された。属名の由来は「雲からの脅威の鳥」という意味に基づく。推定全長40センチメートル。残念ながら、頭骨や翼の先端などは未発見であるが、後半身からしっぽの前半にかけて、および翼の一部をなす尺骨(しゃくこつ)や肩甲骨などがみつかっている。
足の第2指の鉤(かぎ)づめが大きく、その精密な回転面を保証するように、第2中足骨(ちゅうそっこつ)の遠位関節面が蝶番(ちょうつがい)状になっている点や、関節突起によって尾椎(びつい)どうしががっちりと関節しあっている点などは、ミクロラプトルMicroraptorなどとよく似ている。そのため、鳥類ではなく、鳥類に近い恐竜であるとする説もある。系統的にはアルバレツサウルス科や始祖鳥科の近くに置かれている。
ラホナビスは始祖鳥のような近縁属よりは時代的にはずっと後期の動物ではあるが、前述のような獣脚類的要素と、尺骨や仙椎などに示される鳥類的要素とを兼ね備えている。頸(けい)部と背部に含気性の孔をもち、6個の仙椎と長い尾を示す。前腕は一般の鳥のように非常に伸長し、尺骨には複数の小乳頭状突起があり、羽柄の結節のようにみえる。肩甲骨は、肩関節が相当に動けることに由来したような形状を示している。たとえば腕をうまく上方や後方に動かせる能力があったらしい。腸骨と坐骨(ざこつ)は始祖鳥の場合と似ていて、坐骨は短く幅広い形態で、いくつか突起がある。他の鳥類と同じように、腓骨(ひこつ)はかかとの骨との接触を失っている。とくに興味深いとされている点は、ラホナビスの足の第2指がほかの指よりも強大で、大きな鋭いつめをもつことで、これはドロマエオサウルス類やトロオドン類の多くと同様であり、マニラプトル形類というグループの進化のなかで、この機能が繰り返し現れていることである。
ラホナビスがマダガスカルで発見されたということは、原始的鳥類がジュラ紀後期から分布を広げ一般的になっていたか、白亜紀後期までに南方域への道をなんとか進んだかのどちらかであることが推定される。
[小畠郁生]
『真鍋真監修、朝日新聞社事業本部編「恐竜博2005 恐竜から鳥への進化」(カタログ。2005・朝日新聞社)』