日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルムラン」の意味・わかりやすい解説
ルムラン
るむらん
Roger Lemelin
(1919―1992)
カナダの小説家。フランス系。ケベック市の下町、サン・ソオベール界隈(かいわい)に生まれる。一家の経済状態が逼迫(ひっぱく)して中学を中退。下町の恵まれない労働者に混じって、厳しいが活気に満ちた青年時代を過ごした。そのときの経験が、フランス系カナダで初めての都市小説とされるルムランの作品に大きく貢献している。1944年の第1作、ケベックの下町の雰囲気をよく伝える『だらだら坂の下で』(1944)では、民衆の生活が活写され、カトリック的傾向が巧みに揶揄(やゆ)されている。この作品はケベック文学に新しい力を注入するものとして、批評界により大きく取り上げられたばかりではなく、46年にはアカデミー・フランセーズの賞も与えられている。48年から52年にかけては、ジャーナリストとしてタイム誌、ライフ誌、フォーチュン誌などで働く。この間48年に、同じくケベックの小市民生活をユーモラスに描いた小説『プウフルー家』を書くが、同作が一躍有名になり、大成功をおさめるのは52年にテレビ化され、放映されてからである。40年代のフランス系カナダ社会に起こったさまざまな問題、ストライキや第二次世界大戦の影響などを、個性ある、時にはややエキセントリックな登場人物の言動を通してみごとに浮き彫りにしている。同じ52年の『ピエールの大将』も逸することができない。
1961年あたりから、ルムランは作家としてよりは、むしろジャーナリストとして時事問題や政治問題に関心を向ける一方、出版・広告業や新聞経営の方面に活動の主体を移し、72年にはモントリオールの有力紙『ラ・プレス』の社主となって、ケベックの言論界に重きをなした。74年には、フランスのアカデミー・ゴンクールの会員に選ばれる。70年代には、漸進的かつ穏健にではあるが、ケベックのアイデンティティ(民族的自覚)をカナダ連邦内で着実に実現する路線を主張し、その線に沿った発言や政治パンフレットを発表もしている。80年には自伝的回顧録『黄金のズボン』を刊行、子供時代の家族や隣人、遊び仲間の肖像を愛情を込めた筆致で描き出した。
[西本晃二]