知恵蔵 「ローンウルフ型テロ」の解説
ローンウルフ型テロ
2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、各地で散発的に発生していたが、13年のボストンマラソン爆破テロ事件以降、とりわけ民間人が集まる繁華街、コンサート施設、レストランなどの標的(ソフトターゲット)を狙ったローンウルフ型テロが頻発している。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などの普及によって、過激派組織が発信する情報を入手しやすくなり、誰もがどこでもテロを起こせる環境が整ったという背景がある。なかでも欧米では、国内で生まれ育った者が過激思想に感化されて起こすテロ(ホームグロウン・テロ)が増えており、また信仰・政治上の理由だけでなく、地域社会での差別や孤立など、個人的な憎悪やメンタル面の問題が引き金になって起こしたケースも多い。いずれにせよ、組織型テロと違い、ローンウルフ型テロは小規模ではあるものの、実行者は少数で特別な武器も使用しないので、未然に把握・防止するのは極めて困難とされる。
16年6月には、米フロリダ州オーランドで、自動小銃を持った男(29歳)がナイトクラブで乱射し、銃乱射事件としては米史上最悪となる49人の犠牲者を出した。容疑者の男はアフガニスタン系だが、ニューヨーク生まれで、フロリダの州立大学を卒業した後、イスラム系の過激思想の影響を受けたと伝えられる。事件直後にISが犯行声明を出したが、ISとの直接的な関係は確認されず、治安当局の監視対象からも外れていた。
翌7月には、フランス南部のリゾート地ニースで、花火の見物客で密集する大通りに大型トラックが突っ込み、死者86人、負傷者200人以上を出した。事件後、5人が共犯の容疑で拘束されているが、ISなどの過激派組織の直接の関与は確認されておらず、射殺された実行犯(チュニジア人男性)も情報機関の監視対象には入っていなかった。
(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報