アルシノエ2世(読み)アルシノエにせい(英語表記)Arsinoē II

改訂新版 世界大百科事典 「アルシノエ2世」の意味・わかりやすい解説

アルシノエ[2世]
Arsinoē Ⅱ
生没年:前316ころ-前270

ヘレニズム時代エジプトプトレマイオス王朝)の王妃。いろいろな意味で,同朝の有名なクレオパトラ(7世)女王の先蹤(せんしよう)とも見られる。プトレマイオス1世の娘。初め四十数歳も年上のトラキア王,老リュシマコスにめあわされ,その没後自分の異母兄プトレマイオス・ケラウノス(稲妻)と再婚したが,これは1年で死別。エジプトに戻って実弟プトレマイオス2世と結婚し(前278),エジプト王妃となった。その間先妻アルシノエ1世(前述リュシマコスの娘)は3子とともに除かれた。同王朝の醜怪な兄妹婚(姉弟婚)の伝統は彼女から始まる。政治・社交における彼女の力は夫=弟をしのぎ,例えばファイユーム地方の大干拓事業には彼女の参画が想像される。開発地域はアルシノエ県(ノモス)と命名された。末年女神に列せられ,のち2世夫妻はともにフィラデルフォスPhiladelphos(〈愛姉〉〈愛弟〉の意)と尊号される。彼女をまつる神殿や専属の紀年神官・尼官が置かれ,その奉祭の財源名目プトレマイオス朝治下では果樹・ブドウ収穫に6分の1のアポモイラ税が加算された。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アルシノエ2世」の意味・わかりやすい解説

アルシノエ2世
アルシノエにせい
Arsinoē II

[生]前316頃
[没]前270.7.7.
エジプト,プトレマイオス朝時代の女王。プトレマイオス1世ソテルの娘。クレオパトラ7世と並ぶプトレマイオス朝の女傑。前 300年トラキア王リュシマコスの妻となり,わが子を王位につけるため,先妃の子アガトクレスに反逆の罪を着せ,処刑させた。このため内乱となり,セレウコス朝との戦争に発展,前 281年リュシマコスが戦死するとエジプトの兄プトレマイオス2世フィラデルフォスのもとに逃れた。しかしここでも策を弄して王妃アルシノエ1世を陰謀のかどで追放させ,兄と結婚,権勢の拡大に努め,夫とすべての権限を共有し,多くの都市にみずからの名を冠した。死後,女神とされ,大神殿アルシノイオンが建立された。

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世界大百科事典(旧版)内のアルシノエ2世の言及

【トパーズ】より

…プトレマイオス2世の母たるベレニケ王妃の命により,この島から初めて1個のトパーズ(ただしこれは現在ペリドットと呼ばれているもの)がエジプト王家に将来されたのは前3世紀のことだった。トパーズはいたく王を喜ばせ,王はこの宝石で2mにおよぶ妻アルシノエ2世の像をつくらせて,アルシノエ神殿と名づけた聖域にこれを奉納した。このプリニウスの話に出てくるトパゾス島というのは,たぶんセント・ジョン島ではないかといわれている。…

※「アルシノエ2世」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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