日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノモス」の意味・わかりやすい解説
ノモス(古代エジプトの行政区分)
のもす
Nomos
古代エジプトの行政区分で州をさす。古王国時代に統治と財政(徴税)の効果をあげるために実施された制度で、各州が経済的にほぼ均等な力をもつように区画にくふうがなされた。その際、基本原則は灌漑(かんがい)水路を公平に配分することにあった。農業が経済の根幹をなしていたからである。知事は水路の開発、維持、管理の責任者であり、「水路の長」という称号をもっていた。各州はそれぞれの名称、主都、紋章、主神をもっていた。州の数は38または39であった。古王国末期に中央権力の衰弱とともに州間の争いが激化して内戦となり、これが古王国崩壊の大きな要因となった。中王国時代を開いたのは上(かみ)エジプトの優勢ノモスの長であった。この時代に旧区分は廃され、国土は三ないし四つの地方に分けられた。新王国時代には主要都市が隣接地を含めた行政単位となった。プトレマイオス朝時代には州制度が復活し、42州があった。
[酒井傳六]
ノモス(「法律」を意味する古代ギリシア語)
のもす
nomos
「国法」「法律」を意味する古代ギリシア語。広くは「習俗」「習慣」を意味するが、不文の慣習に対して、とくに国家において制定された成文法をさす。「ノモスによって人間の共同存在(ポリス)が形成され、ノモスによって人は公正、正義にあずかる」といわれる。ノモスの起源はゼウスの権威に求められるものの、ノモスは人間が自ら制定するものとの考えがギリシアでは早くから強く、ポリスの形成期において法律を制定した人々(ノモテテース)は尊ばれ、「七賢人」とよばれる人には、これらの人々が多く入っている。
哲学者の目が自然(フイシス)に向けられ、自然に内属する不変の法則が求められるに及んで、ノモスは人為的なもの、相対的なもの、変移的なものとされた。フィシスとノモスの対立を説く思想がこれであるが、プラトン、アリストテレスはこれに対して、ノモスの神的起源をその理性主義的な哲学により擁護した。
[加藤信朗]