改訂新版 世界大百科事典 「エンコウガニ」の意味・わかりやすい解説
エンコウガニ (猿猴蟹)
Carcinoplax longimana
甲殻綱エンコウガニ科のカニで,甲幅6.5cmに達する。北海道南部から九州の水深30~100mの細砂泥底に分布するほか,東シナ海,南シナ海,ベンガル湾,南アフリカ沖からも記録されている。紅赤色の美しい種で,甲面は滑らかな陶器様の光沢がある。甲は丸みを帯びた四角形で,胃域と心域を分ける浅い溝以外は不明りょうである。幼若個体では甲の前側縁に鋭くとがった2本の歯があるが,成長とともに先端は丸くなり,老成すると完全に磨滅して弱く弧を描くだけとなる。十分に成長した雄のはさみ脚は著しく長く,甲幅の4倍に達する。長いはさみ脚は雄としての象徴であるばかりでなく,初夏に行われる交尾の際に雌を抱きかかえるのに役だつ。近縁種のうち比較的個体数が多いのはケブカエンコウガニC.vestitaで,甲幅3cm,やわらかい毛で覆われている。内湾の泥底にすむため汚れていることが多いが,洗うと淡紅色で美しい。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報